<<技術講座>>
夢歩き技術講座
〜夢編〜
August 24,2001
Think&Sink 吉原乙
目次
0.
はじめに *1.
概要 *2.
目的 *3.
夢歩き〜基本方針 *3.1.
夢歩きはゆっくりと *3.1.1.
「ゆっくり」の理由 *3.1.2.
「ゆっくり」のやり方 *3.1.3.
「ゆっくり」のコツ *3.2.
夢歩きは対話形式で *3.2.1.
対話形式の理由 *3.2.2.
対話形式のやり方 *3.2.3.
対話形式のコツ *4.
夢歩き〜導入 *4.1.
導入の前に宣言を *4.1.1.
始宣言の理由 *4.1.2.
始宣言のやり方 *4.1.3.
始宣言のコツ *4.2.
導入は簡単に *4.2.1.
簡単の理由 *4.2.2.
簡単のやり方 *4.2.3.
簡単のコツ *5.
夢歩き〜本編 *5.1.
フェイズ共通行動 *5.1.1.
大道具を出す *5.1.2.
小道具を出す *5.1.3.
出演者を出す *5.2.
フェイズ「起動」 *5.2.1.
起動の目標 *5.2.2.
起動のタイミング *5.2.3.
起動行動 *5.3.
フェイズ「語り出し」 *5.3.1.
語り出しの目標 *5.3.2.
語りだしのタイミング *5.3.3.
語り出し行動 *5.3.3.1.
情報提供 *5.3.3.2.
過去認知 *5.4.
フェイズ「迷走」 *5.4.1.
迷走の目標 *5.4.2.
迷走のタイミング *5.4.3.
迷走行動 *5.4.3.1.
運命の岐路 *5.4.3.2.
悪心の囁き *5.4.3.3.
楽しかった記憶 *5.5.
フェイズ「聞き入れ」 *5.5.1.
聞き入れの目標 *5.5.2.
聞き入れのタイミング *5.5.3.
聞き入れ行動 *5.5.3.1.
舞台設定 *6.
夢歩き〜溶暗 *6.1.
溶暗はこじつける *6.1.1.
こじつけの理由 *6.1.2.
こじつけのやり方 *6.1.3.
こじつけのコツ *6.2.
溶暗の後に宣言を *6.2.1.
終宣言の理由 *6.2.2.
終宣言のやり方 *6.2.3.
終宣言のコツ *7.
まとめ *
深淵と言う
TRPGシステムがある。私の今まで出会ったシステムの中で深淵は最も表現力のあるシステムだと思っている。それは、夢歩きという画期的なルールによってもたらされた恩恵であると私は思う。しかし、多くの深淵マスター、特に初心者の方はこの夢歩きを苦手とされる方が多い。これはとても悲しむべきことである。なぜなら、深淵のプレイは夢歩きで決まるといっても過言ではないからだ。どんなに悪いシナリオでも夢歩きが良ければ良いプレイになる。逆にどんなに良いシナリオでも夢歩きが悪ければ途端にプレイは興ざめである。
ではどうすれば良いのか。誰でも出来る良いシナリオを作ることがその解決策であろうか。たしかに、誰がやっても同じような結末にしかならない、決めうちのシナリオを組めば夢歩きにしてもマスタリングにしても簡単に行えるであろう。しかし、果たしてそれで良いのだろうか。夢歩きには二つの大きな利点があるその一つは「劇的演出」である。なるほど、これは先の解決策で何とかなるかもしれない。もう一つの利点、それは「汎用性」である。この無限の可能性を秘めた夢と言うフィールドを決め打ちした夢歩きでは消してしまうのである。
結局、基本的な夢歩き技術の向上ということにしか解決策は見出せないのである。しかし、そのことについて誰かに聞くと誰も満足の行く答えを用意してはいない。あるのは夢歩きに関する精神論的なウンチクがほとんどである。私はそれを否定する事はしない。というより私こそその精神論的なウンチク論者の一人なのである。
今回これを書こうと思ったのにはそういった堂堂巡りの背景がある。私はこれに終止符を打つことに決めた。これから始まる文章は私の極めて私的な観点でまとめた夢歩き技術の集大成である。
この資料は技術文章である。少なくとも私はそのつもりで書いた。技術と言うものはあくまで道具である。それを手に入れた人間がどう用いるかが最も重要なのである。
この講座は、
PCが本当に夢を見ているときの夢歩き技術を説明するものである。また、この資料中で「夢歩き」と表現しているのは、このときの夢歩きのことである。この講座の目的は、応用性の高い夢歩きの技術を説明することである。したがって、夢歩きは事前に用意せず行うものとする。
細かな技術の説明にうつる前に、全体としての夢歩き基本方針を説明する。
夢歩きはゆっくりと語らなければいけない。
これには、次のような理由がある:
もし、あなたが夢歩きにかける時間を惜しんでいるのなら、それは間違いである。夢歩きによって他の
PLが暇を持て余しても、その時間を皆で楽しめるようにすることこそ重要なのだ。これには次のやり方がある:
例)「あなたはゆっくりと水の中に入っていった。水はとても冷たい」というくだりあったとする。
思いつき :
想像 :
PCが水に入っていくのを想像する。語り :「あなたはゆっくりと水の中に入っていった。」と言う。
思いつき :水が冷たいことにした。
想像 :冷たい水の感覚を想像する。
語り :「水はとても、
..とても冷たい」と言う。(強調する言葉は一拍おいて、もう一度言う)
この例を見ていただくと分かるが、一つの事を伝えるのに「思いつき・想像・語り」の三つの段階を踏んでいる。
ここまで難しいことを書いているように見えるかもしれないが、夢歩きをその場で考えるのだから普通はゆっくりとなる。
それでも難しいと思う方は、このように心がければ「ゆっくり」になる:
子供に絵本を読むときは、想像力を広げさせるようにゆっくり読まなければいけない。これと同じで
PCを子供だと思って語るのである。夢歩きは対話形式で行わなければならない。
これには次のような理由がある:
このやり方には次の二つのパターンがある。
例)ケインとリリアは幼馴染だ。リリアは小さい頃からケインに片思いをしている。
他者誘導 :君の前にリリアが立っている。彼女は俯きながら言った。“ケイン、私のことどう思う?”「どうって、いい友達だと思うよ」
自発誘導 :君がそう言うと、彼女は君の前で泣き出してしまう。(
PL
によっては反応を示してくれない人もいるだろう。しかし、このようにすれば大抵の人は反応してくれる:
ただし、反応を得ずに次に進む手順は最後の手段である。また時として聞き手が何もしないことこそが反応と取れる場合もある。そのようなときは場の雰囲気によって先に進む。
また、自発誘導の「君はその時何事かを言った」は大抵の場合余計である。あなたがゆっくりと夢歩きを進めているのなら、聞き手は目を見られた時点でロールプレイをしてくれるはずである。
夢歩きを始める前に宣言を行わなければならない。
これには次のような理由がある:
導入での宣言は、ただ聞き手の出した運命カードの語り部をそのまま読めばよい。
ない。
夢歩きの導入は簡単なものでなければいけない。
これには次のような理由がある:
これには次のようなやり方がある:
例)「君は砂漠の中に立っている。どこまでも続く砂の海だ
導入は誰にでも容易に想像のつく映像でなければならない。この時点で語り手と聞き手のイメージしていることが違うようなら、その夢歩きは失敗する。
ここまでで夢を語るための舞台が出来上がった。この章では夢歩きの本編について説明する。
次に本編のフェイズを示す:
これらフェイズには次の決まりがある:
これらの決まりを守った上で、語り手はフェイズを選ぶこと。
次に各フェイズ共通でやれることを示す:
フェイズ共通行動は、どのフェイズでやっても構わないし、何回やっても構わない。
大道具とは、泉・樹木・家・大きな鏡、等
PCが身につけられないものである。より抽象的なもの(道など)でも構わない。大道具に対して
PCに何かを行わせる、または大道具に対してPCが何かを行うために出す。
例)
突然、君の周りが戦場となった
君は兵隊に混ざり戦場を駆けていく
小道具とは、剣・指輪・服・足枷、等
PCが身につけられるものである。PC
が小道具を使う、またはPC以外に小道具を使わせるために出す。
例)
君はふと自分が兵装を纏っていることに気付く
出演者は人と限らない、意思をもって
PCに語りかけるものは全て出演者である。先に出した大道具や小道具が途中から意思をもち出演者になることもある。出演者は
PCに語りかける、またはPCに語りかけられるために出す。
例)
横から君の肩を小突くものがいる
君が横を見ると、戦友が君と並走している
彼は君の方を見ると、親指を立ててニッと笑った
このフェイズでの目標は、夢歩きを起動にのせることである。
起動はセッション中のどの部分で行っても構わない。ただし、起動は語り手がどんな夢歩きをするかあまりイメージできていない段階では必ず行うこと。
次に起動でやれることを示す:
起動ではフェイズ共通行動以外行ってはいけない。このフェイズではあくまで夢歩きを起動にのせるだけで、夢の確信に触れてはいけないのである。起動を行ううちにどのような夢歩きかが決まってきたら他のフェイズに移行する。決まらなければ起動のみで終了しても構わない。
このフェイズでの目標は、聞き手に伝えたいことを言うことである。
語りだしは主にセッション序盤〜中盤に用いる。ただし、中盤以降にやり過ぎるとくどくなるので注意が必要である。
次に語り出しでやれることを示す:
情報提供とは単純にセッションに関するヒントまたは答えを与えることである。ただし、夢で見ることなので本当かどうかはセッション中に決めれば良い。
これはセッションをスムーズに進めるために行う。
例)聞き手の
PCに死体の埋まっているところを教えます。君は前を行くネコについて歩いていく
そのネコはある洞窟に入っていった
君が洞窟の前まで行くと声が聞こえてくる
「・・けて、・・たすけて」
過去認知とは
PCの設定に直接関わっている過去を語ることである。PC
が過去を知らない場合(記憶喪失等)はそれを教えるため、PCが過去を知っている場合は改めてその状況を語りそのときの感情等を認識してもらうために行う。また、PCの設定を他のPLに説明することにもなる。
例)
君はいつものように家の扉を開けた
父を捜す、母を捜す
君は家の一番奥の部屋を開けた
君は息を呑んだ
大好きな父が、大好きな母が首をうなだれて天井からぶら下がっていた
このフェイズでの目標は、聞き手に迷いを生じさせることである。
迷走は序盤が終わった後ならいつ用いても良い。ただし、
PCの迷いの対象が登場や露見した後に行うこと。主にセッション中盤〜終盤で用いる。次に迷走でやれることを示す:
これらは迷走フェイズ中ならばどれを何度やっても構わない。
運命の岐路とは、
PCに選択肢を告げそれを選ばせることである。選択肢は簡単に選べるものであってはならない。また選択肢の選んだ結果を語る場合はどちらを選んでも辛いものにすること。
例)
PCのカールは親友であるデニスの恋人アンナを好きになってしまった。友情と愛情を彼に選ばせる。君の前に二つの道がある
一方にはデニスが、もう一方にはアンナが立っている
君はどちらかに進まなければいけない
<デニスを選んだ>
君が進んだ先にはデニスの姿はなかった
かわりにもう一方の道に幸せそうな二人の姿がある
<アンナを選んだ>
君の進んだ先には怒りの表情を浮かべたデニスが立っている
彼は君のことを殴り、アンナと共に道の先に去っていく
悪心の囁きとは、語り手が
PCに自らの心の声として悪感情を語ることである。適切な悪感情としては嫉妬・憎悪・欲望等があたる。悪感情は能動的行動につながるものでなくてはならない。
PCを悪の方向に引きずり込むのが目的である。
例)カールはデニスにアンナと結婚することを聞き、大人しく納得しようとした。
PCに迷いを生じさせる。鏡に写っている君が話し掛けてきた
「デニスとアンナは今ごろ二人の夜を過ごしているのだろうな」
「デニスはきっとお前の想いに気付いて笑っているぞ」
「デニスにとられても良いのか?」
「彼女が欲しいのだろ?」
楽しかった記憶とは、その
PCの昔の思い出を語ることである。思い出は楽しいものや幸せなものでなければならない。悪方向に傾いた
PCが、開き直ろうとしている時に人間性を取り戻させることが目的である。
例)カールはデニスのことを殺してしまった。開き直ろうとした彼に人間性を取り戻させる。
君は死体を埋めようと穴を掘っている
「何で泣いているの?」
後ろを振り向くとそこには幼い姿のデニスが立っている
「ごめん、カールがそんなに欲しかったなんて知らなかったんだ」
ごめんな。そう言って彼は君の肩を抱いた
「ほら、これ」
デニスの手には君の採ろうとしていた昆虫がいた
彼はにっこりと罪のない笑みを浮かべた
このフェイズでの目標は、聞き手の言いたいことを言わせることである。
聞き入れは主にセッション終盤で用いる。ただし、聞き手に「こんな夢歩きがしたい」というヴィジョンが生まれていなければやってはいけない。また、語り手と聞き手の意思疎通が出来ているとより良い。
次に聞き入れでやれることを示す:
聞き入れは聞き手に言いたいことを言わせるフェイズである、語り手は余計なことを語ってはいけない。
舞台設定とは聞き手が表現するための舞台を整えることである。
舞台は聞き手の要求するものでなくてはならない。これは直接聞き手に聞かなければいけないと言うことではない。語り手が聞き手の表現したいことがほぼ分かっており、「そのためにはこの舞台しかない」と思うのであればその舞台を用意しても良い。
舞台設定を行う際次のことを明確にしていく:
またこれらのことは出来るだけ明確にしたほうが良いが、聞き手が「分からない」と言うのであれば深く追求してはいけない。ここで、聞き手がほとんど答えないようであればそれは聞き入れをやる段階ではないと言うことである。他のフェイズに移行するできである。
例)カールの
あなたは今どこにいますか?(
Where)「二人で昆虫採集をした森です」
あなたの名前を呼ぶものがいます。
あなたが振り向くとそこにはデニスがいます。
彼は少年の姿でしょうか?(
When)「いいえ、大人の姿です」
デニス:『なに?』(
What)カール:『お前の変わりに俺が死ぬ。だからデニスは生き返ってアンナのところに行ってくれ』
デニス:(にっこりと笑って静かに首を横に振る)
こじつけるとは、この夢歩きの内容を聞き手の出した運命カードの語り部に意味付けすることである。
これには次の理由がある:
こじつけはもっとも経験がものを言う部分である。よって、こじつけのやり方は各々で夢歩きの経験を積み、体得していただきたい。ただ、夢歩きの本編を終わった後には溶暗があり、そこでは夢歩きの意味を語り部にこじつけるということだけ覚えておいてもらいたい。
こじつけは語り部の欄を見ながら考えると良い。ただし、こじつけに本当の意味でのコツはなく、実践経験あるのみである。
例)本編の聞き入れフェイズ「舞台設定」の例の続きである。カールの出したカードの語り部は「汝の行いは全て許す。今後も敬意を忘れることなかれ」であった。
デニス:『カール、君のやったことを僕は全て許す。
もしそれでも君が罪を償いたいというのなら、
誓ってくれないか?彼女を、アンナを幸せにすると』
夢歩きを終わる前に宣言を行わなければならない。
これには次のような理由がある:
これには次のやり方がある:
語り部の意味を変えて読む場合、この夢歩きを思い出しながら読む。
例)こじつけの例でカールの出したカードが「血が一滴したたった。無明の闇から何かが生まれ世界に波紋をもたらしていく」だった場合。
涙が一滴したたった
君の心の中から何かが生まれ君自身に波紋をもたらしていく
今回、「夢歩き技術講座〜夢編〜」ということでこの資料をお送りした。この資料は夢歩きの技術を分かりやすく説明するために文章中の言葉は全て断定的な口調に統一してある。しかし、夢歩きがその様な画一的なものでなく、それぞれのやり方等があるのはしかるべきであると思う。したがってあなたはこの資料から自分が使えると思う部分だけ用いればよい。私の願いは皆が同じような夢歩きをすることなどではなく、それぞれの語り手がそれぞれの個性を夢歩きで生かせることなのだから。
最後に語っておきたいのは失敗を恐れないで欲しいということだ。あなたの創造性は無限に広がる、それを生かすためであれば一度や二度の失敗がなんだというのだ。恐れずに進め、大切なのは自分を信じることである。進めばそこに道が出来るのだ。
では、私の好きな語り部を掲載し、別れの言葉とさせていただく。最後まで読んでいただきありがとうございました。
「我は灯りを掲げ後続を導く
闇の中にも必ず道は存在するのだ」