深淵関係のコーナー

夢歩きについて −運命カードの料理法ー



深淵発表当時はわりとあちこちのページで夢歩きの取り扱いについては触れられていたのですが、発表から10年近く経った昨今、それらのページはほとんど閉鎖されてしまっているのが現状です。この記事は諸事情によりHP上から消えていた私の7年前の記事に加筆・修正したものです。なお、ゲームデザイナーの朱鷺田氏も別冊FSGI3号において夢歩きについての記事を書いておられますので、参照されることをお勧めします。

 さて、夢歩きを効果的に行うにあたって最も重要なことは、セッションの進み具合にあわせて夢歩きの内容を変えていくことです。順を追ってみていきましょう。

 まず、キャラクター作成時。実は夢歩きを行うにあたって最も重要なのがこの部分です。何故かというと、夢歩きの重要な機能の一つはPCが何を思っているのかを意識・無意識の両面から描写するものだからです。ある状況でPCが怒っているのか悲しんでるのか?が分かっていないと、適切な描写は出来ません。GMはこの段階で以下の4つのことを整理しておく必要があります。(PC作成補助シートも参照してください)
 一つ目はPCの行動指針です。PCが今何を欲し、どういう行動をとろうとしているのかを整理しておく必要があります。これは当たり前ですね。
二つ目は一つ目とも関連するのですが、なぜそのような行動指針をそのPCがとるようになったのか?という過去の出来事の把握です。これが把握できていれば、ゲーム中に過去の描写をくりかえすことで、プレイヤーにPCの行動指針の見通しを与えられるようになります。
 三つ目は、ストーリーレベルでのそのPCのゴールラインです。復讐を望んでいるPCにとって、復讐を遂げることは本当に幸福への道なのでしょうか?魔族の狂信者はそこ以外に本当に生きる場所はないのでしょうか?PC自身の目的意識とは別に、プレイヤー/マスターサイドから見たPCの目標設定の把握は良いロールプレイの必須条件です。セッション終盤におけるPCの心の奥からの囁きかけを行うためにも、この部分の把握は重要事項です。
 四つ目は、そのPCのクライマックスシーンは何であるだろうか?ということです。言えなかった一言や傍観者の記憶、誓いの言葉といった運命の持ち主が一番分かりやすいですが、キャラクター作成時点で、各PCのクライマックスシーンは実はある程度見通せます。クライマックスシーンを暗示しておき終盤に向けプレイヤーに心の準備をさせることも夢歩きの重要な機能です。
 構造型のシナリオであれば、マスターは上記の点が明確になるまでPCを作りこむべきです。即興型の場合はプレイヤーと相談し、練り上げてください。

 次はオープニングにおける夢歩きについてです。オープニングの夢歩きは大別して2パターンあります。一つ目はPCの自己紹介的な夢歩きです。過去に起こった事件や今の悩み・不安といった要素を語り、PCの理解を場の全体で深めていくのです。事件の予兆的な何かが起こるといったものもここに含みます、巻き込まれてシナリオに関わるタイプのPCはこのタイプのオープニングが向いています。
 二つ目は、いきなり事件を起こしホットスタート的なオープニングを演出する夢歩きです。敵国の軍団が村へ進軍してくるのを見つける少年とか、酒場に誰かが追いかけられて駆け込んでくるといったものが例です。一般に深淵はホットスタートは向いていないと思われているようで、あるていどその認識は正しいのですが、たまにこういうオープニングを入れるのも実は結構良いです。一般的にはこのオープニングを行うPCの夢歩きの順番は最後ですが、あえて最初にホットスタートのPCの夢歩きを持ってきて、他のPCの夢歩きの間待たせていてやきもきさせるというのも一つのテクニックとしてあります。
 なお、オープニングの夢歩きで押さえておかなければいけないのは、この部分では他と違い夢・回想とともに短い実際のシーンを行うことが多いということです。

 ゲーム序盤の夢歩きにおいては、PCの方向性の明確化とそれの共有が大事なことです。シナリオ上待ち受ける困難の予兆、PCの回想、重要なNPCに対する印象等の描写を通じ、プレイヤーにPCをどう扱うべきかに対する理解を深め、プレイヤー全員にそれを示すのがこの部分の役割です。PC作成時の設定をプレイヤーに再確認してもらうのと同時に、他のプレイヤーとPC設定を共有してもらいましょう。

 中盤においての夢歩きの役割は、プレイヤーに与える情報量のコントロールといったことになります。すでに方向性がはっきりしているPCには情報の整理を、迷っているPCには判断の材料を提供しましょう。描写の対象としてはシナリオで起きている事件についてとPCの設定についての両方をバランスよく語っていくことが大事です。中盤の夢歩きは序盤でPCの方向性が決まっていれば、マスターとして最も楽しい部分です。

 終盤は、クライマックス・エンディングをPCに予感させることが大事です。訪れる悲劇の予感とそこで衝きつけられる選択をプレイヤーに垣間見せるのです。

 エンディングはいわば「オチ」です。事件の顛末、今後の予感等余韻の残る夢歩きを演出してください。

 上記までのまとめで分かるように、夢歩きの上手な運営に最も大事なのはキャラメイク〜序盤にかけてです。そこさえ乗り切れば夢歩きについてはほぼ成功したも同然です。
 「PCのことを理解する」これがあらゆるTRPGにおいて最も基本的かつ根幹的なことであり、それは夢歩きについても変わらないことをここで強調しておきます。


さて、ここまでのところでは、夢歩きで「何を」伝えるのか?といった点について論じてきました。そこでこの小論の後半部では、「どうやって」つたえるのか?という表現上の技法について論じたいと思います。
 私の場合、夢歩きの表現方法にはいくつかのパターンがありますので、それぞれについて実例を挙げつつ紹介しておきます。
 なお、裏技的なテクニックとして、セッション前にその日の夢歩きの例をいくつか考えておき、状況に合わせてそれを小出しにしていくという手法が非常に有効的であることをここで指摘しておきます。以下を参考に自分の得意なパターンを編み出してください。

1・実際上のそのPCを中心にすえた短いシーンを行う

オープニング・エンディングの夢歩きにおいてもっとも多用される夢歩きです。この夢歩きは通常のシーンと同様に処理されるため、あまり夢歩きらしくないと思われるかもしれませんが、通常のシーンとの最大の相違は、そのシーンがプレイヤーの選択により発生していると言う事です。夢歩きというのはプレイヤーの意志表現の場であると言う事を覚えておいてください。なお、これについては例は挙げません。
現実のシーンだと思っていたのが実は夢だった、という裏技も有ります。

2 幻視のなかで過去の事件を見る

オープニングや序盤に多用される夢歩きです。そのPCの自己紹介的な夢歩きであり、過去の事件とセッションで語られる物語との関係を伝える夢歩きです。記憶不全、過去 に関わる疑念等の運命の持ち主の場合全編がこの夢歩きで統一されることもあります。

( 例 : オープニング時 )

自の風虎 我は忘れぬ。我はあきらめぬ。我は追いつめる。
GM: 「あなたはいつもあの時の事を夢に見る。
自らの友を手にかけてしまった時の事。 あのさびた鉄のにおい。 ゆっくりとナイフが肉に沈んでしく時の、あの感触。
暖かな血。 そして、あなたを見つめる、友の娘の視線。 あなたはいつもそれを夢に見る。

3 なんらか ( 死霊、魔族、龍、幻聴等 ) の声が 聞こえる

何らかの超越的存在と会話する夢歩きです。幻視の中の時も現実のシーン上の時も 両方有り得ます。中盤においての情報整理 や、終盤でのクライマックスを予感させるための夢歩きに私は多用しています。問いかけやあざけりの声というパターンが多いです。

( 例 : 中盤の夢歩き )
黄の通火
見よ ! 光と閣の双方があって初めて意味が あるのだ。

GM: 「あなたは夢の中こんな女性の声を聞いた。
『ほんとうに
それで、いいの ?』」

4 幻視の中でなにか ( 麗族、死霊、龍等 ) と であう。

通常達成値が 25 を超えている時に発生 する夢歩きです。それ以外の時に用いる場合はクライマックス直前が最も多いです。その場合プレイヤーに覚悟を促すための夢歩きとなります。序盤・中盤で発生する場合は 事件の予兆、情報を伝える、といった目的で用います。

3 、 4 の夢歩きに関してですが、通常私は シナリオに直接魔族が登場しない場合でもPC 達を『見ている』存在を設定する事が多いです。彼らの目的は見る事そのもので、きまぐれにPC 達に声をかけているという風に描写するのです。ブーレイ、イエロマーグ、タンローズといったあまりにも超越しすぎてもはや何を考えているのかさっぱり分からな いかたがたや、ゴアスプル、ナイストラッドといったよく分からない行動指針の持ち主をわたしはこういうとき使います。
あと、特筆すべき点としては、死亡した PC のエンデイングで死の翼を出すのは定番の 一つであるということがあります。


(例: 終盤の夢歩き )

黒の原蛇
融合せよ。汝の生きざまを我に分け与えよ。
GM: 『あなたの魂は肉体を抜け出し深い深 い深淵の奥底へと降りていく。 そこであなたは一人の老人と出会う。彼は 尋ねる。
君の望みは何かね ?j
PL:「 彼女を救う事です。」
GM: 彼は続けてあなたに尋ねる。「 その望みは、例えば、そのために君が何か を失っても、ということかね ?」

5 何も言わない

あまりにも状況にはまりすぎて、なにも言 わないほうがよいケースもあります。中盤〜終盤に多く発生します。また、この変形として 「 あなたはそのとき 〜〜と思った 」というのもあります。
( 例 )
白の翼人 死は正しき終わり。終わりなくば節度もまた無し。
GM: 「このカードの通りだ。僕が何も言う必要はないだろ ?

6 予知夢

この先起きる可能性のあるシーンを描写する事によって、プレイヤーにシナリオの進む方向性について情報を与え、心の準備をさせるための夢歩きです。特にクライマックスシーンの予兆はくり返し行い、プレイヤーに準備させるべきです。また、PCの望む未来を描写し現在の状況を克服する活力を与える、といった使い方も有ります。

( 例 中盤の夢歩き )

赤の野槌
この場所こそ我が故郷。それだけは決して 忘れない。
GM: あなたは夢を見た。 故郷で彼女と二人平和に暮らしている、そんな夢だ。
目がさめた時、夢の中の彼女の笑顔を思いだしながらあなたは思った。 まだ、死ぬ訳には行かない。

7 イメージの断片

現実世界で見る夢のように、抽象的なイメージが語られるだけの夢もあります。こういう夢歩きは、もっともプレイヤーに深い印象を与えるものの、はっきりいってこんなものは準備しておかなければとっさに出せるものでは有りません。いくつか描写のストックを考えておくべきです。私が良く使う描写のパターンは・消えそうな灯火・雪に覆われた町並み・落雷・沈みそうな船・吹き荒れる嵐・肉の渦・流れる川といったイメージです。
( 例 1: エンディングの夢歩き )
白の海王
汝の行いはすべて許す。今後も敬意を忘るることなかれ。
GM::「あなたはいつのまにか雪がふっているのに気がついた。この調子なら、きっと明日にはつもっているに違いない。 ゆっくりと降りつづける雪がこの町を純白に染めていく。 この町で起きた全ての事の上に、雪はゆっくりとおりていく。』
( 例 2: 第 2 回京都深淵コン使用シナリオより)
黄の原蛇
希望 ? 夢 ? それはいったい何を意味するというのだ ?
GM::「こんな夢を見た。
吹きあれる属の中、 たたきつけるような雨の中、 その小さな明かりは光をもたらしていた。
絶望のような嵐の中、 恐怖のような豪雨の中、 今にも消えそうなその小さな明かりは、 それでもたしかにそこにあった。
あなたはそんな夢を見た。

8 声


聞の中から声が響くとしりた夢歩きです。
3 の夢歩きと似ていますが、むしろこれは PC の無意識からの声と言ったような夢です。 「よわむし」「偽善者」「おくびょう者 」といったPCの心にグサッとくるような言葉が、言って欲しくない人の声で聞こえるという夢歩きです。私は中盤〜終盤で多用します。例は挙げません。


9 その他

特殊な表現方法を用いた夢歩きです。私が聞いた事があるのは運命力一ドを破く、燃やすといったものです。カードの予備がふんだんにある場合しか使えない夢歩きです。 なお、開いた事が有るだけで本当にやっていたのかは知りません。火の始末には十分に注意しましょう。
( 例 : エンデイングの夢歩き )
白の翼人 死は正しき終わり。終わりなくば、節度もまたなし。
GM: 「あなたの脳裏に、死は正しき終わり。 終わりなくば、節度もまたなし、と言う言葉が 浮かぶ。
( 力一ドに火をつける )
( 燃えるカードを見つめながら ) あなたは思う。そんなのはうそだ。でたらめだ。
以上が私の使い分けているパターンです (9はさすがにやったことはないですが(笑)。重要なのは自分の得意な方法を見つけ、ストックを増やしていく事です。

では、この言葉でこの小論を終わりたいと思います。

良い夢を !

( 付記 : 某コンベンションにおいて9のヴァリエーションとして以下のようなものをお教えいただきました。
緑の青龍
汝らは我が餌。ただ、それだけの存在に過ぎないのだ。
GM:( 運命力ードに塩をふって ) もしゃもしゃ・・・.
もうお分かりですね、破る、燃やすの他に、 「食べる 」 というパターンの指摘を受けたのです ! ちなみに「この夢歩き実際使う気あるの ? 」と聞 いたところ、彼は絶対いやだと申しておりました。