運命考察9 血に飢えた戦士、言えなかった一言等




 えー、6・7・8とすこし内容が薄くなっているのは皆さんお気づきだと思います。まあ、6.7はともかく8あたりは無理やり書いたきらいがないわけではないのでしょうがないですが(8は本日若干加筆しました、付記のところです)、とりあえず今回と次回でまとめ的なものを書いて、一旦この運命考察のシリーズは終わらせようと思っています。今回はまとめ的な話ですので表題の2つの運命は例として取り上げるだけで、この2つの運命を中心に何か書こうと言うわけではありません。今回の話は運命の重さということについてです。

 さて、深淵のキャラクターというのはたいていの場合2つ(たまに3つ)の運命を持っています。この2つの運命とテンプレートの設定からキャラの厚みを作っていくわけですが(うちのサークル推薦のキャラ作成補助シートも見てね)、良くあることとしてどちらかがメインの運命になりもう一方はサブ的な扱いになるということがあります、特に即興型でゲームを行う時よくおきます。もちろん理想的には2つの運命が共にセッションで中心に取り上げられるか、2つの運命が絡み合って1つの設定が生まれる、といった形が理想なのは言うまでもありません。しかしながら「待機」であるとか「冬の予感」「大いなる予言」といった運命はどうしてもシナリオのメインにはなりにくいものです。またキャラクターの性格付けに使われる運命、たとえば「醜悪」「妄想」等は性格付けのためだけに使われセッション中は扱われない、といったこともよく見かけます。
 もちろん上記の運命をセッションの中心に持ってこれない、というわけではありません。たとえば冬の予感であれば、漠然とした不安が常にあり倦怠感におおわれ何もする気が起きない、という風にこの運命を見るならば、これが充分セッションのメインになれる運命であるのがわかるでしょう(抑鬱という状態を表すのに冬の予感は非常に良い運命です)。私がここで指摘したいのは、キャラクターメイキングの際、ある種の運命はどのぐらいまでその運命にふみこむのか明らかにする必要がある、ということです。

 まず、「血に飢えた戦士」「無垢」「遠い声」「際だった性格」「依存症」といった運命は軽く扱われることが多い、つまりサブにまわされることが多い運命です。しかし本気でセッションの中心にもってくるならこれほどこわい運命はそうはない、という運命でもあります。これらの運命を扱う時の注意点は、マスター・プレイヤー間でこれらの運命に対する態度(サブなのかメインなのか)を明らかにしておくこと(キャラクター作成補助シートを活用してください)、およびセッションの序盤でそれをできるだけ明確化しておくことです。明確化に関してはオープニングの夢歩きが最も有効な手段です。
 例として"血に飢えた戦士"、という運命について考えて見ましょう。簡単に言うとこの運命はPCをバーサーカーにする運命です。この運命が軽視されがちなのは明らかに初期の戦闘中心のTRPG(たとえばHT&Tやイース)においてバーサークというのが単なる戦術オプションの一つであったことに起因するのでしょう。この種の昔かたぎのゲーマーにはバーサーク化というのは単なる戦術の一つに写るらしいのです。また、戦闘系以外がこの運命を引いた時、引き直されることが多い運命でもあります。
 さて、通常この運命がセッションの主題になる時は、過去のバーサーク化によって誰かを傷つけ(あるいは殺傷し)てしまった後悔といったようなモチーフが扱われます。つまりNPCとのからみでこの運命は扱われることが多いのです。しかしながらこの運命は実は単独であっても十分に重く、セッションの中心をはるにふさわしい運命です。
 プレイヤーとマスター間のキャラメイク後の打ちあわせにおいて、この運命が単独でセッションの中心に来るということが確認されている時、私がマスターならこんなオープニングの夢歩きにするでしょう。

白の青龍 深淵より更に外。それは夢の戦場なり。

君はいつも心の奥から聞こえるこんな声に悩まされている。
その声は君にこうささやきかける

壊せ・・・
潰せ・・・
全てのものを浄化するのだ・・・
世界の全ては無意味なのだ・・・
さあ、こんな無意味な世界におまえを産んだ、全てのものに復讐するのだ・・・

何度か君はこの声に負けたこともある
声の誘惑に屈したことがある
世界の全てに対する憎しみを押さえきれなくなったこともある

正気に戻った時は後悔する
だが、君は心の奥からの声に従っている時、
自分の中の何かが歓喜にうち震えていることも知っている

君は今眠っている
夢は見なかった
ただ、いつものようにあの声だけが聞こえた

壊せ・・・
潰せ・・・


 ここまでオープニングでやっておけば、もうプレイヤーもこの運命をただの戦術オプションととらえる恐れはないでしょう。
 もういちど念のため言っておきますが、別に私はこの運命が単なる戦闘時の選択師の一つになってはだめだ、と言っている訳ではありません。私が言いたいのは運命をどういうふうに扱うのかキャラメイク時に相談し、序盤でそれをあきらかにしろ、ということなのです。

 さて、上記の論議では通常軽く扱われがちの運命も(もちろん血に飢えた戦士が軽く扱われがちなのは、明らかに誤解に基づいている訳だが)やりようによっては十分セッションの主役をはれる、といったことを論議し、その場合の注意点について述べました。ということはもちろん普段セッションの中心として扱われることの多い運命が、キャラメイク時のマスター・プレイヤー間の合意に基づいて、キャラの性格づけだけのために用いられることも十分有り得るということになります。
 たとえば"言えなかった一言"という運命を例に出しましょう。この運命は割と人気の高い運命であり、恋愛をシナリオに絡める時多用される運命です。通常の場合この運命の持ち主が言えなかった一言を言うというのはセッションの最大のクライマックスであり、この運命の持ち主はセッションにおいて主役的役割を背負わされることが多いわけです。
 しかしながら、私の友人のゲーマーN氏(ちなみに既婚者である)はこんな事を言っていました。「日本の妻帯者の男は、大体の場合奥さんに対して"愛している"という言えなかった一言の運命を持っているんだよなあ。」少なくともしらふで言える台詞ではないです。なるほど、確かにそういうふうに扱うのであればこの運命はそのキャラの性格づけにのみ使われ、セッションにおいてはサブにまわるでありましょう。


 別のところでも言ったことですが、運命と言うのは単体ではそれほどバリエーションが有るツールではないです。運命と言うのはそれをどう扱うのかということを考え、それをマスターと話し合い、確認しあうことによりはじめてその最大の効果を発揮するものなのです。この事をもういちど確認しておいてください。