運命考察3王者の相



 実は一番扱いに悩んでいるのがこの運命です。というのは、「王者の相」を持っていると言えるようなカリスマを持った人物と言うのを見た事がないからです。見ただけでわかるような威厳とか、神々しさとか、そういう雰囲気って実際に存在するのでしょうか?
 ルール的にはこの運命は、いけにえに捧げられた場合に普通よりボーナスがある、というものです。どちらかというと、あまりうれしい運命ではありません(対人交渉の+3ボーナスというのもありますが)。「いけにえに適している」=「王者の相」なわけはないので、なにかロールプレイに反映されるべき特徴を考えたくなるのは自然な思考ですが、あいにく見た事のないものの特徴など私にはわかりません。
 まあ、わからん、わからんとうめいていてもしょうがないので、私の本棚を眺めながら、カリスマというものをもっていそうな人物を小説や漫画からピックアップして、考えていきましょう。

   まず最初に考えられるのが、いわゆる悪の美学を身につけたヒーロー達です。STAR WARSのダースヴェーダーや、ヴァンパイアクロニクルのレスタトと言った人物には、たしかに王者の相とも言うべきカリスマが有るような気がします。しかしながら王者の相=「悪の美学」という見方には私は違和感を感じます。悪の美学をカリスマと見る見方には、E・フロムが指摘した、ファシズムの源泉としてのサディズム・マゾヒズムをおもいだしてしまうからです(注1)。

 次に考えられるのは、ある思想の体言者としてのカリスマです。いわゆるアメコミのヒーローたちは、「アメリカ的な正義」の象徴としてのカリスマですし、宗教系の教祖のカリスマも本人でなくその宗教にその源があると思われます。つまり、偽りの自我を提供してくれるいわば逃走先としてのカリスマです。そういった人物たちの持つ特徴について考察する事はしませんが(注2)、ある思想への傾倒がカリスマの根元であるという仮定もしっくりくるものでは有りません。この仮定が正しいとしたら、カリスマという存在(=王者の相)は、単なる思い込みの激しい迷惑野郎になってしまいます。


 どうも、カリスマとは何か?という疑問から王者の相について考察するのは無理が有るようです。いくら考察してもカリスマという概念そのものに対する不信感がつのってくるだけです。ここは切り口を変えて、王者の相という運命がどのようなストーリーをもたらすのか、ということに注目しましょう。

 王者の相という運命を持っているテンプレートは37「異端イェロマーグ派の吟遊詩人」、40「貴婦人」の2つです。前者はどちらかというといけにえとしての適正が設定的には主であると思われるので、後者に注目して論を進めましょう。彼女に期待される基本ストーリーラインは、夫の領主と比してあまりにも大きすぎる器により招き寄せられる悲劇と言ったものです。イメージ的にはクレオパトラとか則天武后などでしょうか。
 なるほど、このテンプレートでは、「望んでいないのに与えられた制御しきれない力」=「王者の相」というふうになっているようです。本人に制御しきれない力とか、望んでいないのに与えられた力というのは、確かに面白いテーマです。たとえば、莫大な遺産を相続したがゆえに、まわりの人間全てが自分を陥れてるという妄想にとりつかれた男の話とか、美貌をもって生まれたがゆえに、もし自分が美人じゃなかったら、人は自分を相手にしてくれるだろうかと悩む女性などというのは、昔からくり返し使われたテーマです。そういえば、何年か前に大ヒットした例のTVアニメもこういうモチーフでしたね。
 ということは、王者の相をもたらす力とは、「本人の人格に比しあまりにも強い力」であれば、たとえそれが美貌であろうが、なにかの素質であろうが、血統であろうが、要するに本人の努力と無関係に与えられた力であればかまわないようです。
 とすると、本人の望まない能力の象徴としての、いけにえとしての適性の意味が良くわかります。

 結論としては、王者の相を扱う場合には、人格の高さにそれを求めるのではなく、何でもいいから本人が望まず手にした力(それこそ超能力とかでもかまわない)を設定し、それをバックボーンにこの運命をあつかうべきであろう、ということになるのでしょうか。

 ちなみに、上のような考察に立った場合、この運命が最も活かされるのは、少年、白馬を連れた少女、踊り子といった、若さが身上のキャラクターである、ということがいえると思います。若さの持つ可能性と言うのはしばしば若者を襲う最も厳しい種類のプレッシャーとなるのですから。

(注1)E・フロム 「自由からの逃走」1941(日高六郎訳 東京創元社)
(注2)こういった、なんらかの思想の体言者的なカリスマを持った人物の精神的特徴として、自己愛人格障害と言う概念を論じる人もいます。詳しくは専門書を参照してください(推薦できるような一般向けの書籍は残念ながら見当たりませんでした)。