テンプレートNo.12「少年」



 少年というテンプレートは、ある意味深淵で最強のテンプレートの一つです。少年には人生経験がありません、生活の知恵をもっていません、戦闘に役立つ技術は少年とは無縁のものです。ですが、だからこそ少年は最強の存在なのです
。  大人は大人になるまでの間に、さまざまなことを経験します。それは世の中の暗部を見ることかもしれないし、やむにやまれぬ事情で自分の手を汚さねばならないことかもしれません。だから大人は矛盾に対さなければいけないとき、自らの手がすでに汚れていることを自覚しなければなりません。
 しかしながら、少年は、少年だけはそのような矛盾に真っ向から対抗できるのです、裸の王様に真実を指摘したのは少年だったのはけして偶然ではありません。少年は世界を知らないがゆえにまっすぐであり、現実を知らないがゆえに夢を持てるのです。そしてそれが少年を最強にして最弱のテンプレートにしている由縁なのです。
 ですから、少年に求められるのはまっすぐであること、素直であること、夢を持っていることです。それらを武器に少年はセッションに参加します。迷いは少年にふさわしくない感情です。実際問題として、

ルハーブ「どうして泣いているの?」
少年「だって、あなたがあまりにもかわいそうで・・・」

 などというなめた口を、蒼き死の公女ルハーブに向かって言えるのは少年だけです。大人なら黙り込むか、相当の決意でしか口をきけない魔族に対し、ストレートな感情を表現し、なおかつそれが効果的というのは少年だけです。

 さて、少年はまっすぐさゆえにセッションで他に立ち回れるわけですが、そのまっすぐさの喪失ということが少年にとってなさねばならない課題です。考えればわかる通り、少年の強さというのはもろいものです。少年の強さは現実を知らないことが源であり、少年が強さを発揮するには少年を守る大人の存在が不可欠になります(このことは、自分以外のプレイヤーが少年をやるとき忘れないでください)。テンプレートの解説では、少年は旅に出たと記述されています。これは少年のセッション中でなさねばならない課題を暗示しているものです。旅に出た、ということは故郷の両親を捨ててきた、ということであります。これは、少年の無意識下における自立への欲求を示しているものであります。少年の課題とはセッションの経験の中で、現実を知り、本当の意味での強さを見につけねばならない、ということです。少年がセッションで行うべきこととは、経験をつみ、ほんの少しだけ世界を知り、再び日常に戻る(旅に出た子供は家に帰らねばなりません)ということです。少年にとって本当の意味で運命を解き明かすのは、テンプレート名が少年でなくなったときなのでしょう。そのときこそ、元少年は彼の物語をつむげるだけの強さを持てているはずです。

   少年というテンプレートと相性がいいのは、10「運命の出会い(同性)」、14「親殺しの予言」、16「言えなかった一言」、41「封印の破壊者」、53「王者の相」、67「死霊の守護」、71「友なる動物」、などです(私の経験則ですが)。
逆に相性がよくないのは、4「自己犠牲」、17「忠誠」、34「死の約定」、43「任務」、44「際立った性格」、62「無垢」、79「支配者」などです、少年というテンプレートの役割は、生き延びて成長することにあるわけですから、あまり行動を制限するような運命や、死が避けられないような運命、成長が期待できなくなるような運命は相性が悪いようです。個人的な意見では無垢との相性は最悪です。

(追記)  上記の少年の記述を読まれた方の中には、おそらく反発心を感じられた方も多いと思います。私も現実の世の中の少年たちが、単純にまっすぐで純情であるなどという夢物語を信じてはいません。援助交際という名の売春や、陰湿化するいじめ・知識詰め込み型の受験教育などの種種さまざまな問題が、今の日本の少年ということを考えたとき頭に浮かぶでしょう。たしかに、今この時代の日本に生きている我々、という視点に立つとき、今言ったような問題を視野に入れて少年をロールプレイしようというのは、あながち間違いではないと思います。ですが、私はそれらを扱うのは「基本」とは言いがたい、という考えにたち、本論ではそのような部分は無視します(それにそのようなテーマはどちらかというと他のテンプレート向きな気がしますし)。ご了承ください。

 参考文献

 昔話の深層 河合隼雄著 講談社α文庫
 子供と悪  河合隼雄著 岩波書店
 心理療法の実際 pp80-109 誠信書房
 UFOと猫とゲームの規則 飛火野燿著 角川スニーカー文庫
                              (その他多数の小説・映画等・・・)