深淵が良くわかる本−上巻−



はじめに


まずはあいさつからいきたいとおもいます。「当深淵専門TRPGサークルTHINK&SINK発行の同人誌"深淵がよくわかる本"を手にとってくださり、ありがとうございます。そしてお待たせした皆さん、ごめんなさい。」

さて、この本の内容ですが、タイトルのとおり深淵の入門書を目指して書かれています。この本を読んでいる方には自明のことかもしれませんが、深淵とはホビージャパンより発売のファンタジーTRPGのことです。魅力的であるもののその難解さゆえに敬遠されることも多いこのゲームには、入門書、手びき書、ガイドブックのたぐいが必要だと常々私は思ってきました。この本は"私の"理解における深淵について、できるだけやさしく解説をすることをねらっています。

TRPGそのものについての解説は残念ながらこの本では行いません。もし、TRPGについてまったく知らない、という人がこの本を手にとっているのであれば(まあそんなことはまずないでしょうが)、どなたかTRPGを知っている人にお薦めの本を教えてもらうなりしてください。筆者としては初心者用にはマイクロデザイン社発行の「テーブルトークRPG入門」を、それよりすこし程度の高いものとしては同じ会社の「RPGゲームマスターになる本」を推薦しておきます。

このシリーズは上中下巻の3部構成で完結する予定です。上巻は入門編ということで深淵をやったことのない人が、付属シナリオを用いてマスターができるようになるまで、を扱います。ルールブックが手元になくてもわかるように書いていますが、基本的にはルール理解の補助というスタンスでこの本は書かれていますので、この本を読んで深淵に興味をもたれた方はできるだけルールブックを購入してくださるようお願いいたします(そもそもルールブックなしではゲームが出来ませんからね)。
なお、中巻は応用編として魔法や世界設定といった情報や、シナリオの作り方等について、下巻は資料編ということで、コンベンションで深淵をプレイするには?等の各論的な事についてを扱います。

TRPGサークルTHINK&SINK 代表 在胡

目次



第1章 深淵ってどんなゲーム?
第2章 キャラクターを作ってみよう
第3章 深淵のルール
第4章 深淵のPCをうまく扱うには?
第5章 糸と青 (ゲームマスター初歩)
付録2−2 作成済みPC集
付録3−1 深淵ルールサマリー
あとがき

第1章 深淵ってどんなゲーム?

まず初めに、深淵とはどのようなゲームであり、どんな事をするのに向いていて、どんな事をするのに向いていないのか?ということを考えていきましょう。

1−1 深淵の特徴(1) 魅力的なキャラクター

深淵の魅力としてまず第1に挙げられるのが,魅力的なPCを作るためのルールが整理されている、ということです。深淵というのはストーリー志向の強いゲームですが、このゲームにおけるストーリーとは様々な過去/背景を持つ魅力的なPC達が作り出す物語であり、キャラスター設定そのものが一つのストーリーになりえるのです。
たとえばこの本に載っているシナリオである「糸」を例に挙げてみます。このシナリオのあらすじは"魔族(注1)に呪いを受けた妹を家族に持つ騎士の領地である村に、かって家族を魔族教団に惨殺された過去を持つ退魔師と、かっての騎士の友人であり立身出世を夢見て故郷を飛び出し魔族崇拝の噂のある領主に仕える黒騎士となった青年、この二人が訪ねてくる"というものです。今のあらすじは実は簡単なPC紹介を行っただけなのですが、これだけで十分魅力的なストーリーの予感がしませんか?
深淵のPCとはこういったストーリーラインの中心となりえるPCであり、このようなPCがうまく作成できるように工夫されている、これが深淵の第1の魅力なのです。

(注1)魔族:深淵世界のあちこちに封印された強大な力を持った魔物

1−2 深淵の特徴(2) キャラクターの表現力

深淵では魅力的なPCを作ることが出来ると先ほど言いました。しかし、いくら魅力的なPCが作れてもそれをしっかりと表現できる手段がなければ無意味なのは明白です。ということで、深淵の魅力の2つめはPCを表現する為の手段がしっかりと準備されているということです。
深淵では予言、幻視などのファンタジーにおける魅力的なシュチュエーションを表現するための"夢歩き"というルールが用意されています。これは夜寝るときに夢を見るシーンや強い精神的ショックを受けたときに幻を見るといったシーンを発生させるというルールです。PCが夜寝ているときに見る夢の中で彼の過去の事件や今の思い/悩みが語られることにより、そのPCがどのような人物であるのかをはっきりと示すことが出来るようになるわけです。重要なのは、夢歩きにおける夢/幻視の内容の決定にある程度プレイヤーの意志が反映されるということです。夢歩きの詳細については第5章で扱います。

1−3 深淵の特徴(3) 世界観

魅力的なPCが作れ、その魅力を表現するためのルールがあっても、活躍するための世界観がダメダメではゲームがだいなしになってしまいますね。当然深淵の魅力の3つ目は、PCが活躍するための魅力的な世界設定が用意されている、ということです。
この世界には魔族とよばれる強大な力を持った魔物が世界のあちこちに封印されており、それとの戦いが深淵のストーリーの重要なテーマの一つになっています。注目すべき事は、彼らが太古においては人間であり、神々の圧政に対抗するため人の身を捨て魔族となる道を選んだ、ということです。過去人間であった魔族たちがどのような苦難の道を経て魔族となったのか?ということが、様々な過去を背負ったPCたちの人生と交差するとき、そこには美しいドラマが生まれるでしょう。深淵の世界設定とはそのようなものなのです。
世界設定の詳しいことについては上巻では扱いません、それらは中・下巻において詳細に検討されるでしょう。

1−4 深淵の出来ないこと

さて、いままで深淵の特徴について述べてきました、つまり、深淵の出来ることについて述べてきたわけです。出来ることがあれば出来ないことがあるのはあたりまえで、この節では深淵がどのようなことに向いていないのかについて述べます。
本題に入る前に念のため言っておくと、基本的に良いゲームというのは、何をするためのゲームであるのかが明確であるゲームの事であり、何でも出来るゲームの事ではありません。何でも出来るけど何をやっていいのかよくわからない焦点のぼやけたゲームより、何をするためのゲームなのか明確なゲームの方が優れているのはあたりまえですよね。出来ないことがはっきりしている,というのは名作の必須条件の一つである、と言えるでしょう。

さて、深淵に向いていないことですが、基本的に深淵は派手なアクションシーンをやるには向いていません。クリフハンガーやスピードといったような手に汗握るアクションシーンを再現するのなら、深淵よりほかに向いているゲームはいくらでもあります(筆者はTORGを推薦します。また2001年初頭発売予定のブルーローズもそういったことに非常に適したいいゲームです)。一応作業判定という,そういう状況を再現するためのルールがあるにはあるのですが、正直あまり良いルールではありません。
また深淵は緻密な戦略・戦術を立て状況を解決する(たとえばダンジョンを踏破する),といったゲーム的なTRPGにも向いていません。そういうことがしたかったら現在でも(A)D&Dに勝るゲームはないでしょうね。

いまの話からもわかるように、基本的に深淵は人物の内面描写をしっかり行いPCの行動に重みを持たせるという設計指針に基づいて作られていますので、派手なアクションシーンや古典的なダンジョンレイダーには向いていないのです。このことは良く覚えていてください。

第2章 キャラクターを作ってみよう



さて、とりあえず細かいルールや世界設定といったところは後回しにして、深淵がどんなゲームかを簡単にわかってもらうために、キャラクター作りを実際に行ってみる事にしましょう。

2−1 テンプレートと運命

といっても、深淵のキャラメイクは実はテンプレートっていう途中まで出来あがったキャラクターの雛型みたいなものを選択して、その後に運命っていうランダムに決まるキャラ設定をカードで決定するだけなんですけどね。

とはいうものの、この運命っていうルールは第1章で述べた「魅力的なPC」を生み出す源で、いわば深淵の魅力の3分の1を担う存在なのです。たとえば農夫・商人といった平和そうなテンプレートが、運命を決めるためにカードを引いた瞬間にいきなり"一月に一度赤ん坊をいけにえに捧げなければいけない魔族の手下"になってしまったり、「おまえはもうすぐ死ぬ」と予言されたりしてしまうわけです。深淵が怖いゲームだって言われる理由がよくわかりますね(笑)。
もう一つ怖いのは、PCに関連するNPCも運命を一つ持っているってことです。このゲームではPCとNPC等の関係を表すための"縁故"という数値を決めるようになっています。それで、1が知り合い、3が友人、5以上は運命を共にする相手となっているのですが、5以上の縁故を持つNPCも一つ運命を持っているんです。つまり、友殺しの予言という運命を持つ友人や、愛するものを滅ぼす予言の運命を持つ妻なんていう恐ろしいNPCが簡単に生まれるんですよ、このゲームでは。

参考のためいくつか面白そうな運命を名前だけあげておきましょう。ルールブックをお持ちでない方はこれらがどんな運命なのかを想像して、これらからどんなストーリーが生まれそうかを考えて見てください。

・魔剣
・生きかえった死者
・死霊の守護
・親殺しの予言
・王者の相
・借金
・故郷を滅ぼされた
・言えなかった一言
・追放
・運命の出会い
・血に飢えた戦士

2−2 深淵のキャラメイク

運命というルールについてはもう良くわかってもらえたと思います。とはいうものの、いきなりこんな重い設定をやれと言われても、なかなか実際問題として難しい面があるのは事実です。
そこで必須になってくるのが、キャラクターの設定をまとめる、という作業です。この冊子の後半部分の付録2−1を見てください。これは私が作成したシートで、運命を基にキャラクターの設定をまとめるためのシートです。意味のわからない質問もあるかもしれませんが、"やりたい夢歩きはどのようなものですか?"という問いは"やりたいシーンは"と読み替え、他のわからない欄は今は無視してください。このシートを基にPCの過去や思いといった設定を深めていき、面白いストーリーを生み出せるPCにしていく、これが深淵のキャラメイクなのです(なお、念のため言っておくと語り辺の書にはいっているキャラシートは使用すべきではありません(某コンベンションでゲームデザイナーに確認したところ「あのシートは僕も使ったことがないよ」とおっしゃっておられました、おいおい)。能力値等のデーターはテンプレートのコピーをそのまま使用しましょう)。

面白いキャラを作るコツなんかは次節で述べるとして、まず実際にキャラメイクを行ってみましょう。練習として次の3キャラについてシートを埋めてみてください。

・テンプレート:少年 運命:借金、運命の出会い/異性 関連NPC:運命の相手(病魔)
・テンプレート:騎士 運命:追放、醜悪
・テンプレート:商人 運命:故郷を失った、敵対者 関連NPC:敵(魔族の血)

2−3 キャラクター解釈のコツ

どうですか、面白いキャラクターが出来ましたか?付録の2−2に作成済みPC集というのを載せていますので、それも参考にして見てくださいね。

さて、なんとなくわかったと思いますが、深淵のキャラメイクとは要するにシナリオそのものに他なりません。キャラ設定を見ているだけで「面白そうなキャラだなあ。これでどんなストーリーが生まれるんだろう」とわくわくさせること、これが深淵のキャラメイクに要求されるものです。そして、このようなPCが複数集まった時自然と生まれるドラマ、これが深淵のストーリーラインの根底にあるものであり、そのようなドラマが発生しないキャラクターは深淵のPCとしてふさわしくないのです。

(よく深淵はマスター負担が高いと言われますが、あれは真っ赤な嘘であるのがこのことからも良くわかると思います。深淵はマスター負担が高いのではなく、プレイヤー負担が高いゲームなのです。一見マスター負担が高そうに見えるのは、プレイヤーのフォローをしなければならないためであって、プレイヤーがちゃんとやってくれれば深淵ほどマスターが楽なゲームはないのです)

運命からPC設定を解釈しシートを埋め、魅力的なキャラクターを作る,というのは案外難しいかもしれません。コツとしては・過去に何があったのか?・これから何をしなければいけないのか?というように過去と未来という視点からPC解釈を行う、ということが挙げられます。過去に何があったのか、ということを考えることで、ゲーム中のPCを動かす際の判断基準が生まれ、またPCの行動に説得力が出てきます。また、これから何をしなければいけないのかがある程度はっきりしていないと、そもそもシナリオに参加できないし何をしていいのかわかりませんね。つまり、PCの動機と目的を明らかにする,という考え方でPC設定を行うのがコツなのです。

そして最終的には、"一言で言うとこんなPC"といったふうなコンセプトがはっきりすることが望まれるわけです。

また、ここから派生することですがゲームになれるまでの間は使用可能テンプレートはテンプレート番号1−13と40,41の一般系テンプレートのみに限定すべきです(追加テンプレートの船乗り、初老の男を加えてもいいでしょう)。その他の魔法使いや魔族の使徒系のテンプレートは世界設定やそのテンプレートの持つ雰囲気がわかっていないとやりづらいことが多いのです。

2−4 キャラクター作成のコツ(応用編)

 この節はある程度ゲームになれた人や、ゲームマスターから見たPC作成といった多少応用に属することを扱います深淵というゲーム自体になれていない人はいったんこの節は飛ばし読みして、ルールブックを読み通しセッションになれた後にここにもどってきてください

 さて、詳しくは中巻の即興型シナリオのところで扱うつもりですが、深淵のPCというのは大別して3つのタイプに分類できますその3つとは・主役型・能動型・受動型の3種類です。簡単にに説明すると主役型とはそのPCがいる以上こういうタイプのシナリオ以外ありえない、というぐらいの支配力を有するPCのことです。人形使いや夜の司祭(吸血鬼)といったテンプレートがいれば、このPC対残りのPCという構図以外のシナリオ展開は考えにくいですし、運命91−7を持っているPCがいればそのPCを中心にセッションを進めざるを得ないのは分りますよね。能動型のPCとは現在するべき目的があり行動指針もはっきりしているPC、特にマスターが誘導しなくても勝手に動けるタイプのPCのことです^とはすでに安定した(堕落した?)生活を送っておりマスターが無理やりハプニングに巻き込まない限り動こうとしないPCのことです 詳しい議論はここでは出来ませんが、ある程度ゲームに慣れてきたのなら(主役型をするかどうかはともかく)受動型のPCを作るのはやめましょう。そもそもゲームに慣れてないプレイヤーはいやおうなしに受動型的にPC作成を行いがちなのですもちろん受動型のPCにも存在意義はちゃんとありますが、受動型PCしかいないセッションなどただのゲームマスターに対するいやがらせです。能動型PCがいてはじめて受動型PCは意味を持つのです、忘れないでください

 さて、もうひとつPC作成に関してちょっとしたコツをあげておきます^命には派手な運命と地味な運命(正確には派手に見える運命と地味に見える運命だが、ここではこれ以上述べない)が存在します地味系の運命が2つ組み合わさってもあんまり面白くないでしょうし、91−7に代表されるド派手な運命を持っているのならもう一つは多少地味目の運命を引きたくなることもあるでしょう。どんな運命があるのか知っているプレイヤーなら自分でもう一つの運命を決めればいいのでしょうけれど、知らないプレイヤーの場合もう一つの運命を単純にランダムでは決めたくないということはわりとあります
 またNPCの運命を決めることになったとき、ときおり意味不明の運命を引いて困惑することがあります。魔法を使わない妻が「血の代償」を持っていても意味はないですし、友なる動物が「冬の予感」を持っているというのは意味不明です。明らかにNPCに不向きの運命というのはやっぱりあるのです。

そこで補助チャートを付録2−3に作成しました。番号は運命のナンバーです、活用してください。自分の好みにカスタマイズしても面白いでしょうね(特に赤札関連の運命といくつか入れ替えると派手になります)

第3章 深淵のルール



この章では深淵のルールについての話全般を扱います。といっても基本判定方法がどうの、戦闘ルールがどうのといった話を扱うのではありません。ここで扱うのはもっと基礎的な話、例えばルールブックの読み方であるとか、人にルールを説明するときの注意点といったものです(ですので、そういったことに自信のある人はこの章は読み飛ばしてください)。ルールそれ自体については私のコンベンションで用いているサマリー(要約)の抜粋を付録の3−1で載せますので、深淵のルールをご存じない方はまず最初にそちらを読んでください。

3−1 ルールブックの読み方

どのゲームでもそうだと思うのですが、いわゆるベテランが「ゲームするなら最低ルールぐらい読んでこい!」と言うのに対しビギナーが「こんなぶ厚い本どこから読んだらいいのかわからない!」と反論するのはあまりにも良くある状況です。
読みたいように読めばいいんじゃないの?とお思いかもしれませんが、ルールブックの読み方を教えてくれ、とストレートに言われた経験が私にはあります、どうやらそもそも本をあまり読まない人には「読みたいように読む」というのが何を意味するのかわからないらしいですね、。まあ、中学高校のときのことを思いだしてみると、本を読む楽しさを教えられる国語の先生はほとんどいませんでしたから、それも当然なのかもしれませんが(そういう教師に限って、最近の若いもんは本を読まない、とよく嘆きますが、自分が本ギライ大量生産工場の歯車の一つだっていう自覚が無いんですね、困ったことです。ああ、念のため言っておくと、ごく少数ですが私は良い国語の先生に幾度かめぐりあえましたよ、幸運なことに)。まあこんな小冊子を読んでいるものずきな人に活字ギライがいるとは思えませんが、ルールの読み方を人に説明するという状況は十分あるでしょう。

ということでこの節では深淵に限らず、一般的なTRPGのルールの読み方について論じましょう。えーっと、まず最初にルールブックを読むときに覚えていて欲しいことは、ルールブックに記してある情報というのは基本的に以下の4つに大別できると言うことです。

1、ゲームの紹介
2、基本判定方法
3、特殊判定方法
4、世界設定紹介

1はこのゲームがどんなゲームであるか?について書いてあるところです。TRPGとはなにか?ということの説明がある場合もあります。後書きやはじめにといったところにこういう内容が記されていることも多いです。新しいゲームを買ってきたらまず最初にこの部分を読んで、どんな楽しいセッションができるんだろうとわくわくしながら読んでください。

2は基本的な判定の方法について書かれている部分です。深淵の場合なら"判定値+さいころ2個で10を超えれば成功、足りない場合はカードか寿命でフォローできる"といった内容です。この部分は記述量が少ないわりに最も重要な部分です。ここを読み落とすとエライ事になるので注意してください。
3はそれ以外の全ルール、キャラメイクであるとか戦闘・夢歩き・魔法と言った部分ががすべてここに該当します。
4は世界設定やフレーバーのための小説といったルール面以外のすべての内容が含まれます。ゲーム紹介のためのリプレイなんかを載せているゲームも多いですが、それもここに含みます。

で、2・3・4についてはそれこそ面白そうなところから読んだらいいんです。特殊判定方法は基本判定方法がわかっていないと意味がわからないかもしれませんが、世界設定紹介なんかはルールを知らなくても読めますしね。どこがおもしろそうかということは最初に1のゲームの紹介というところを読んでもらっていればわかるでしょう(それがわからないんだったらそのゲームは駄作だから燃やしましょう)。

深淵の場合であれば、語り部の書のリプレイや予感の書のテンプレート、運命の書、世界の書の魔族の所なんかを最初に見るのがいいと思います。その後基本判定の所を読んだ後、夢歩きのルールなんかの面白しそうな所を読みましょう。
戦闘ルールや魔法といったあたりは深淵って大体こんなゲームなんだな、というイメージがつかめた後に読んだ方がいいですね。重要なことは興味がもてない所は読み飛ばせば良い,ということです。読むのが辛ければ戦闘ルールを読むのは最後でもかまわないですし、作業判定やカード戦闘はそのルールを使わないんだったらまったく読む必要はないです。

まあ、いずれは頭から通して読むべきですが、ここで重要なのは、ルールブックを通して読む意欲を最初に確保しておく(=わくわくしておく)ということです。最初から通して読むだけのモチベーションがあるんならそれにこしたことはありません。
逆に編集が悪くて読むに耐えないというんなら(深淵の編集も良いとは言いませんが、水準は確保していると思います)、ゲームをやる前に最低1・2の部分だけでも把握しておきましょう。

3−2 ルールサマリーの用い方

深淵を、いや深淵に限らずどんなゲームでも、それをを初めてプレイするとき、あるいは初めてプレイする人が入るセッションのマスターをすることになったとき、ルールサマリーをどのように用いるのか?と言うことがそのセッションが面白くなるかどうかのかなりの部分に影響します。
一般的に言って、やったことの無いゲームの卓に座ることになったとき、そのプレイヤーはルールに対しかなり不安を持っているものです。また、ルールの説明を把握するのに一生懸命になりすぎて、セッションの前半部分への集中力が低下する,ということもありがちなことですね。

ということで、ルールサマリーを事前に渡して目を通しておいてもらう,というのは非常に有効な手法です。一応見本として私が使っているサマリーの一部を載せておきましたので参考にしてください。読んでもらえればわかるでしょうが、事前に読んでもらうことが前提のサマリーは正確さよりわかりやすさが重要です。細かいところはゲーム中マスターが補佐すればいいことですからね。
ちなみに、ゲーム中参照することが前提のサマリーはわかりやすさよりも正確さと情報の豊富さが大事です。追憶についているサマリーをゲーム前日に初心者に渡してもまったく無意味ですが、ゲーム中に参照するために渡しておくのは大いに意味があります。この使いわけには注意してください。

3−3 ルール説明のコツ

 サマリーを事前に読んでもらうことが出来ない場合は、しょうがないので口頭でルール説明を行う羽目に陥ってしまいます、まったくなんぎなことですね。

 基本的には先のサマリーに関する話の応用で口頭でのルール説明も行えます。 つまり正確さよりもわかりやすさ、です。口頭説明の場合重要になるのは、どの部分が説明する必要があってどの部分が説明しなくてもよいか、ということです
 たとえば、世界設定に関する話が必要なのは当然ですが、絶対に必要といえる部分はほんのわずかな部分であるはずです深淵を例にあげるなら、ゲームのジャンルがファンタジーであること、技術レベルはあまり高くないこと、魔族という恐ろしい魔物があちこちに封印されていることぐらいで十分です。星座や神々と魔族の戦い・世界の情勢などの細部設定は、どうせ説明しても聞いちゃいません。必要になれば説明すればいいのです魔族が過去人間であったなどの世界設定の基本コンセプトは確かに知らないと絶対にだめな部分ですが、ゲーム前に説明するよりもゲーム中に夢歩きで明らかにしたほうがより効果的です
また、ルール部分で必要なのは、最初から知っていないとまずい情報です。基本判定と夢歩きはもちろん説明が必須ですが、戦闘や魔法のルールはゲーム前に説明する必要はありません。しかし戦闘ルールを説明する必要がないにもかかわらず、戦闘のダメージ決定でカードを使うことは説明しておく必要があります叙事詩に残る一撃(ダメージ50のカード)や貫通の重要性はいざ戦闘になってから説明しても手遅れですからね。前もって知ってていないとまずい情報とはそういう意味です

もう一ついっておくと、ルール説明というのはすでにゲームの一部であることを忘れないでください。ルール説明を聞いているだけでわくわくしてくる、それがルール説明に必要なものです。もちろん急にいわれてもこんなことはむりでしょう。ルール説明というのは実は事前に練習して、いくつか盛り上げるテクニックを用意しておくべきものなのです。
例えばキャラメイクについてであれば
「深淵のキャラメイクっていうのは実はほとんどやることがないんですよ、(コピーの束を出しながら)この途中まで出来上がったテンプレートっていうのからやりたいのを選んで運命っていうキャラ設定を決めるだけなんです。簡単でしょ?
ただ、この運命っていうのがミソなんですね。実際にやってみましょうか、例えばこの平和そうなつらした農夫!この平和ボケしたような男が(カードを引いて)えいやっとばかりにカードを引いた瞬間に・・・えーと、28番?(運命の書をめくって)おまえはもうすぐ死ぬ!と予言されてしまうんですよ。はたまたこの純朴そうな少年が(カードを引いて)一月に一回赤ん坊をいけにえにささげなければいけないという設定がついてしまうんですよ
・・・だいたい深淵がどんなゲームか分りましたよね?」
というふうに説明だけでウケが取れるんですよ。ちなみにさっきの例は私のマスターでゲームしたことのある人は一回は聞いたことがあるはずです。私は深淵のマスターを初心者相手にするとき毎回今の説明を使っているんです。説明のパターンのストックをためておき、いつでもそれを使えるようにしておくのは実は重要なテクニックなんですね。私はほかにも夢歩きや世界設定の説明のウケるストックも持っていますが、自分なりの説明をあなたも編み出してください。

第4章 深淵のPCをうまく扱うには?



 この章では深淵にプレイヤーとして参加する場合のコツについて話しましょう。従来どんなゲームでもゲームマスター論は豊富なのにプレイヤー論がほとんどないのは不思議なことです。とくに深淵のようなゲームはうまくプレイングするコツというのは重要です

4−1 深淵におけるプレイヤーの役割

 第2章でくりかえし強調したように、深淵におけるPC設定とはシナリオの根幹に他なりません。プレイヤーとしてもとめられるのは魅力的なPCを作成する能力であり、それについての充分な表現力を持つことです。
 第2章で体験してもらったからもうわかっているでしょうが、深淵の運命、というのは基本的にはプレイヤーの発想力を刺激するためのツールであって、プレイヤーがどういうPCがおもしろいのだろう?、このキャラ面白いなあ今度PCで使ってみたいなあ、とどれだけ思った経験があるかにその成否はかかっています。あのシートは実は結構全部きっちり埋めるのは難しいんですよ。
 そして、その上でプレイヤーはPCをいかに上手く表現するか?ということにゲーム中チャレンジすることになるわけです。この章で扱うのはキャラメイク後の話ですが、キャラメイク終了時点でゲームの成否は80%決まっているぐらいのつもりでいてください。

4−2 行動決定の指針

 さて、深淵における上手いプレイヤーのやり方、言い換えれば深淵らしいロールプレイとはどのようなものなのでしょうか?
 それを考える前に、そもそもロールプレイとは何ぞや?という事について考えてみましょう。
 ときおり誤解されているようですが、ロールプレイとは「君のためなら死ねる!」とか「○○-、死ぬなー!」といった台詞に代表される、好きだ嫌いだ、生きるだ死ぬだのと意味もなく熱い台詞を叫び大騒ぎすることだけではありません。別にそれらがロールプレイではない、とまで言う気はありませんが、ロールプレイとは役割を演じることという意味である以上、役割のモデルとなる対象が想定されている必要があります。そして躁病でもない限り現実世界で生きるの死ぬの大騒ぎする人はほとんどいないのですから、TRPGにおいても生きるの死ぬの大騒ぎすることとロールプレイはほとんど無関係なんです。そういう大騒ぎがおきても不自然でない状況で大騒ぎするならそれはロールプレイと呼んでも不自然ではないでしょうが。  もちろん"演技"なわけですから、多少わざとらしかったりくさかったりするのは当然です。現実とそっくりなのがいいロールプレイだとは私は思いません。しかし、舞台においては過剰なわざとらしさ、くささを持った役者は大根役者と呼ばれるんです。
 つまり、深淵に限らず良いロールプレイというのは、その場の状況にふさわしい対応のことである、というふうに言えるわけです。

 さて、では深淵らしいロールプレイとは何かということについて次に考えてみましょう。えっと、深淵ではないのですが、過去ゲームデザイナーの伏見健二氏がなさったキャンペーンが非常に参考になるので、それを例に挙げて考えていきます。
 伏見氏が行ったキャンペーンとは、戦争で孤児となった子供達が苦難を乗り越え立派な極悪人になっていく、というなかなかイカスキャンペーンでした。極限の空腹なのにお金がない→夜中にパン屋にこそ泥に入る、両親の仇を討ちたいのに力がない→力を得るために邪神教団に入信する、こうやって過去を一つ一つ積み上げていくことで自然と極悪人に感情移入させ、最終的には金のため村娘を女衒に売り飛ばすということを自然と出来るようになっていくわけです。私はこのキャンペーンを行ったということで伏見氏は天才的マスターだと思っているのですが、それはともかく今の話からわかることが一つあります。どんなとんでもない行動であれ、それを不自然に思わせないだけの過去の積み上げがあれば自然と名ロールプレイとして受けとめられる、ということです。リアリティがある、といっても良いでしょう。そして深淵らしいロールプレイというのもリアリティがあるロールプレイの事なのです。

 深淵の特徴的なルールの一つに夢歩きというのがあるのはご存知ですよね。夢歩きにおいて見る夢の中で過去に経た経験が語られることはよくあることです。夢歩きとはPC表現のための強力なツールであり、PCの過去、現在の悩み・思いといったPCがどんな人物かを示してくれるものです。深淵におけるプレイヤーの役割とは、キャラクターメイキングにおいて作られた魅力的なPCを、夢歩きというPCの内面表現の強力な武器を用いながらリアリティをもって動かしていく、これが深淵におけるプレイヤーの役割なのです。
 もちろん、PC設定の記述をなぞるだけでは単なる予定調和です。深淵は多人数で行う遊びである以上、PC同士の関係が非常に重要になってきます。互いのPCがPCらしく行動しようとする中で生まれる物語、これが深淵の本質です。ゆえに、PC同士の関係を築こうと意図的に行動するということが非常に重要になってきます。もちろん、場合によってはPC設定とPC間の人間関係作りが対立することもあるでしょう。そういったときにどう対処していくのか、これがプレイヤーの腕である、といえるわけです。

4−3 はるかなる頂上

 プレイヤーのテクニック的なことについての基本は以上です。この節で扱うのはプレイヤーをやるにあたっての心構えというか目標についてです。

 この節で言いたいのは一つだけです。いつかこんなPCをやってみたいなあ、いつかこんな台詞を言えたらいいなあ、いつかこんなシーン出来たらいいなあ、といった目標を持ってください。深淵ではリアリティが大切だといいましたよね、リアリティを保持したままどれだけのことが出来るか、ということを頭の片隅においておいてください。
 例えばエンディングの夢歩きで「たぶん、人生に意味はある」とつぶやくとか、母の死のシーンに際し「お母さん、私を産んでくれてありがとう」というとかです。このクラスのシーンをリアリティを保ったままやることがどれだけ難しいかはわかるでしょう。私もこういうシーンを再現できる力はまだありません。でも、いつかそれに近いセッションが出来たらいいな、といつも思っています。

第5章 糸と青(ゲームマスター初歩)



5−1 マスタリングの基本的な考え方

 深淵におけるマスタリングとはPCが活躍できる舞台を用意し、PCが関与すべき事件を起こすことがその仕事の全てといっても過言ではありません。プレイヤーがPCを操るのに対しマスターは世界を操るといってもいいでしょう。
重要なことは、決してマスターがストーリーを語ろうとしないことです。このゲームにおいてはわざわざマスターが物語を語らなくても、PCサイドに自力でストーリーを紡げるだけのポテンシャルがあるはずです。
もちろん、プレイヤーの未熟さのためにゲームマスターがストーリーを語らなければいけないというなんぎなことになることもあるでしょう。そういう時は思いきり過酷に扱ってやりましょう。自分で動かなければヤバイと思わせることがこの場合重要なことです。ゲームマスタリングとはあくまでもプレイヤーのPC表現の補助にすぎないし、それ以上のことはただの越権行為なのです。

5−2 糸と青

 さてとはいうものの、いきなりプレイヤーの作ったPC相手にアドリブでマスターをしろ、といっても無茶な話です。そういうわけでこの小冊子では付録の2つのPC作成済みのシナリオ、糸というシナリオと青というシナリオを最初に行う事を推奨します。ちなみに深淵のシナリオは大別して、その日に作ったPCで行う即興型と、事前にマスターが用意したPCを用いる構造型があるわけですが(本当はもう一つありますが、中巻への宿題にしておきます。どんなものか考えておいてください)、基本的に構造型は即興型に劣ります。プレイヤーのPCへの感情移入が起こしにくいからです。もちろん失敗しないという安定感は構造型の方がはるかに上ですが、うまくいったときの達成感は即興型の方がはるかに上です。構造型がマスターだけで物語を考えているのに対し、即興型はプレイヤーとマスターの全員で物語を考えるのですから、これは当然のことです。構造型は即興型の練習か、よほど変わったシュチュエーションをシナリオに持ち込む時にだけ使う、と理解しておいてください。

 さて、余談はそろそろ終わりにして、さきにまずこの二つのシナリオに目を通してください。以下の節ではそれを前提にこの2つのシナリオを行うコツについて解説します。といってもNPCの演技についてはシナリオに詳述してありますし、夢歩きについてはシナリオの記述と付録の5−1に私のとこのホームページの夢歩きに関する記事を載せたので充分いけるでしょう。
 そこで、次の節では一般的な描写のコツといった内容を述べ、マスターの話は一旦終わります。ゲームマスター技術の詳しい内容は中巻を待っていてください。それまではこの2つのシナリオで描写の腕を磨いておいてくださいね。

5−3 描写のストック

 どんなゲームでもそうだと思いますが、特に深淵の場合適切な描写を行うというのは非常に重要なことです。プレイヤーはPCの見たものをゲームマスターの言葉から知るわけです、つまり描写を行うということはPCの五感の変わりをする、ということなわけです。
 とはいえ、目に見えること聞こえることの全てを偏執的に語っても仕方がありませんので、基本的には語らない部分はプレイヤーの想像力をあてにせざるをえないわけです。ここで重要なのは、可能な限りプレイヤーの想像力を刺激し、活性化させておく、ということです。例えば季節や天候というのは意外に重要な要素です。ゲームの冒頭に「今は夏です」と宣言しておけば想像力の豊かなプレイヤーは照りつける太陽や虫の鳴き声を想像してくれるでしょうし、秋といえば紅葉を思ってくれるでしょう。もちろんときおり「君たちは額の汗をぬぐった」というような描写を適当に入れ、夏のイメージをプレイヤーの無意識に送り込むことを忘れてはなりません。また、NPCの描写の際、服装や雰囲気について述べないのはナンセンス名のはわかりますよね(同じ事はPCについても言えますが、PCの場合はテンプレートのイラストが想像力の補助をしてくれます)。
 季節や気候の描写はわりと研究してみるとおくが深いですよ、雨にふさわしいオープニングシーンとかって想像出来ませんか?エンディングで雪が積もり出すのもしみじみとしていい雰囲気ですしね。

 こういった描写のコツとしては、出来るだけ視覚以外の感覚の描写を入れるのを忘れないこと、抽象表現や比喩表現を駆使すること等があります。要はプレイヤーを架空世界に没頭させるのが描写の役目なのです。そのためには「おやっ?」と思わせるのがコツになってくるわけです。

 もう一つコツとしてはたまに詳しい描写をいれると効果的であるということがあげられます。たとえば洞窟に入った時
「君たちは自分たちのはく息が白くなっていることに気がついた。洞窟の内部は急に温度が下がっており、たいまつに照らされた君たちの腕に軽く鳥肌が立っているのがわかる。洞窟は静かで君たちの歩く足音以外の音は、天井から落ちるからの水音だけしかしない。カツンカツンという君たちの足音だけが洞窟に響いている。」という描写をいれるといいでしょう。こういう描写をたまにいれておくと他のシーンでも聴覚・触覚・嗅覚といったあたりに気を配ってくれるようになりますよ。もちろんこんな描写は急には出来ませんから、自分の得意パターンのストックをいくつか用意しておくのです。例えば洞窟、森、夜の町等の描写のストックがいくつかあるとすごく便利です。
 また、実際に自分の目で見た経験は真実味があるので、いろんなことを見聞きしそれを語れるようにしておくことは非常に重要です。個人的にはTRPGゲーマーなら実際に鍾乳洞か防空壕跡で洞窟の雰囲気を体験しておくべきだ、と私は思っています。もし山口県か長野県に行く事があったらちょっと足をのばしてそういうとこに行ってみるのはいいですよ(少なくとも観光は出来ます)。

5−4 落雷

 一応マスタリングについても基礎の基礎だけは全て述べましたが、もし中巻が待ちきれないとか、一度自作のPCをやってみたい、とお思いでしたら、基本ルールブックの落雷というシナリオをやってみることをお勧めします。このシナリオは単純な割に奥が深く、非常に扱い易いシナリオです。このシナリオはマスタリングに際する注意が抱負に記されていますので、それを参考にマスタリングしてみてください。

5−5 描写について(応用)

 この節で扱うことは、多少応用的な描写のテクニックです。描写の基本的な技術が身についたと思ってからお読みになることをお勧めします。
 描写ということについて意外に戦闘時の描写は軽視されています。しかし他のゲームでもそうだと思いますが、単純な数字のやり取りになりがちの戦闘シーンにおいて、具体的に何がPC達の眼前で起きているのかを描写すると言うのは非常に重要なことです。深淵の場合カードを数枚くみ合わせてダメージの決定を行いますが、単にカードのダメージ欄を読み上げるだけでは具体的に何が起きているのか見当もつかないことも多いので、マスターが情報を整理する必要がでてくるわけです。例えば「首から軽く出血する 生命力ー3」「相手の武器を損傷する 硬度ー5」「肩に激しく当たる。そのまま、転倒し、2mほど転がっていく。」というカードの組み合わせであれば、「相手の武器に激しく当たった剣がその衝撃で跳ね上がり、相手の頬に深い傷をつけた。あう手はそのショックで激しく転倒した」とでも情報を整理すれば何が起きているのか具体的になってわかりやすくなりますよね。
 カードの組み合わせでは一つの行動に収束しきれないということもありえますが(内臓損傷&足に命中といった場合など)そういう時は行動を2回に分けて描写すればいいのです。例えば「相手の足を深く傷つけた後、さらに剣を振りかぶって…」というようにすればわかりますよね。


付録 2−2 作成済みPC集



・ケイン
テンプレート:狩人
運命 妄想、捜し求める仇
縁故 愛用の弓2、死霊(エミリ)5、仇5

 彼は狩人であった両親を若いころ亡くし、それ以来ずっと姉と二人で暮らしてきました。幸い両親の才覚を受け継いだのか彼の腕は良く、慎ましやかながらもそれなりに幸福な日々を過ごしてきました。  そんな平穏な日々が破られたのは、ちょうど今から4年ほど前のことになります。彼が狩から戻ったとき、家には姉の姿はなく、かすかな血のにおいと血痕が残されていました。彼は姉を探そうと尽力しましたが、今はもう姉は死んでしまっていると確信しています。それはある時から死霊となった姉の声を聞き、姿を見るようになったからです。姉はあなたに自分の仇を取ることを繰り返し訴えてきます。あなたは仇を討つことで頭がいっぱいです。

 実際はこのキャラに見えているのは幻覚であり、聞こえている声も幻聴にすぎません。彼の姉を守れなかったという後悔が歪んだ形でこうして現れているのです。このPCのシナリオでの究極的な目的は、復讐などと言う後ろ向きな生き方を改め、自分の人生を歩むことです。

・ユリア・ファニス
テンプレート:貴婦人
運命:王者の相、妄想(失われた翼)

(基本的な設定はテンプレートの記述にしたがってください)
 彼女には嫁いできて以来ずっと悩まされている病があります。幻影肢痛という現象をご存知でしょうか?事故などで急に四肢が失われたりした場合、無いはずの手足が痛む、という現象が起きる事があります。これが幻影肢痛といわれる現象です。  彼女が悩まされているのもこれです。彼女はそんなもの最初から存在したはずのない"翼"が痛むのです。これは嫁いできた日よりずっと続いています。これがなにを意味するのか?それは彼女にもわかりません。

セルバンテ 
テンプレート名:騎士
運命:醜悪、極端な性格(モラリスト)
縁故:基本+姫6、極端な性格3
 彼は、ある騎士の家の長男でした。彼は幼い頃、顔面に大火傷を負っており、顔に醜い痕があります。彼は、それをコンプレックスに思い、また、それでも彼に優しかった姫に憧れています。彼は自分の思いが恋愛感情だと半ば気付いていますが、彼はそれを抑えつけるために、自我を強烈なモラリストとして形成しました。

プレイの指針:このキャラをロールプレイする際に頭に入れておいてほしいことは、彼の自我を形成する一番大きいものは劣等感である、ということです。武芸を究めたのも、騎士として出世してきたのも全てはこの劣等感ゆえです。そして劣等感を意識しないための精神の防護壁がモラルと言うことです。彼は自分の判断に根本的に自信をもっていません。彼の口癖は「王国の騎士として・・・」ですが、それはつまり自分の判断への自信の無さが根拠にあります。
 マスターは夢歩きでモラリストの仮面を捨て欲望に忠実に生きるように囁きかけてきます。いつ自分の本心に忠実になるか、そしてそれは遅すぎないのか?が焦点です。

・ミリア
テンプレート:踊り子 
運命 魔族との遭遇 主人
縁故 館の主人5 恋人(レイク)5、赤子(マルコ)5
ミリアが愛する恋人レイクのもとをさったのは今からちょうど1年前のことでした。ある日、彼女のもとにある時一人の執事風の男が訪ねてきてこう言ったのです。
「お前は愛する者の子供を身ごもっておる。しかしその子供は呪われし運命を持っておる。お前の子供は産まれてすぐに魔族ににえに捧げられるだろう。」狼狽する彼女に男は幻を見せました(夢歩きです)、彼の愛する恋人が、魔族を召還し、将来生まれる子をにえに捧げる、そう言っている場面です。更に男は言いました、「我が子を助けたくば、私に仕えよ。そうすれば、子は救われるだろう。」愛する恋人が魔族と縁があり、しかも自分との子をいけにえに捧げようとしている!、彼女の狼狽は相当なものであり、彼女にはその男の言うことに逆らうことはできませんでした。というのはレイクには禁忌の魔道に手を染めているといううわさがあり、実際にレイクが魔道書のような本をもっているのを見たことがあったからです
 こうして、ミリアはレイクのもとをさり、この不思議な男と彼が主人とする少年に仕え、彼ら2人の屋敷でメイドのような仕事を行うことになったのです。子供は無事、半年後に生まれました。生まれた日の夜、彼女と赤ん坊の元に黒い影のようなものが訪れましたが、彼女はその前後の記憶を失っています。

レイク 
原蛇の魔導師
運命 魔族との遭遇 失踪
縁故 基本+恋人(ミリア) 5

 彼の恋人が失踪してもう1年がすぎようとしています。彼は魔族の召喚に成功し、魔道の力を手に入れたのですが、彼女の失踪以来魔導の探求を棚上げして彼女の行方を探していますが、それは杳としてしれないままです。
 また彼は魔族を召喚した前後の記憶が欠落しており、そのことに不安を抱いています。  この世界の魔道師は一般的な存在でなく、自分の素姓を隠しているものだということを念頭に置いてロールプレイしてください。幻蛇の魔道師と言うのは、召喚をつかさどる存在であり、ある意味魔道師たちの中で最も滅びに近い人種です。また、召喚の反動は常に生死を賭けるものであり、軽々しく魔道は行えるものでない、と言うことも念頭に置いてください。
 彼の行動指針は「なぜだ?」と言う言葉に集約されます。なぜ彼女は失踪したのか、何が魔族を召喚したときにあったのか、全てが彼にとって(そして彼にとってだけ)謎です。それを説き明かすように行動してください。あなたのPCには、自主的になぞをとこうとすることが要求されます。

グレナン・レイン
テンプレート名:古鏡のまじない師
運命:醜悪、記憶不全
  彼はある滅んだ国の元貴族令嬢だった女性に仕えています。身寄りの無い彼を引きとり育ててくれた彼女の両親の恩に報いるためにも、彼は彼女を一生守っていこうと思っています。主人の家の聞きに書けつけるため学院での修行を中途で終え、魔道師となる道は断たれましたが悔いてはいません。
 彼が醜悪の運命を得たのは、お家復興のための任務の途中でした。鏡面転移の途中あった"何か"により、彼の顔は醜く腐りはてています。深淵で何があったのか、なにと出会ったのか、彼はそれを覚えていませんし、気にもしていません。彼にとって重要なのは、愛する主人がそれを気にするかどうかであり、幸い彼女は彼を醜悪さゆえに疎むほどおろかではなかったのです。
(実際あったこと:鏡面転移の途中、ふとしたミスにより深淵の奥底へ落ちていこうとした彼を、封印の統領サブラムが助けたのです。サブラムは後に自らの僕となるよう彼に求め、証として顔面に刻印を刻みました)

付録3−1 深淵ルールサマリー(抜粋)



基本判定
夢歩き
戦闘ルール



基本判定

1、プレイ前に必要なこと
ゲームの開始にあたり、プレイヤーの手元にはキャラクターシートと6枚の運命カードが手渡されます。(図−1参照)そのほかにプレイにはサイコロが2つと筆記用具が必要になります。

2,基本判定ルール

TRPGにおいては成否がわからない行動を行なおうとした場合、それがうまくいったかどうかの確認をするために、ゲームマスターが行為判定の指示を行なう可能性があります。その方法について説明します。(注)
キャラシートを見てください技能と書かれた欄があると思います。それがこのキャラクターが得意としていることです。行為判定を求められたら、サイコロを2個ふり、その値の合計とマスターの指示する技能を足します(この値を達成値といいます)、その値が高ければ、行なおうとした行為は成功したことになります。大抵の場合成功に必要な値は10ですが、難しい行為の場合それ以上の数字が求められることになります、その場合はマスターが値を指示します。
(注:明らかに成功するのがわかりきっている判定は行なう必要はないということです。これは戦闘でも同じです。勝てない戦闘にサイコロは触れません)

3,行為判定のボーナス

判定においてはどうしても成功したいというときもあるでしょう。そのような時は3つの方法があります。 1つは寿命を削るという方法です。深淵のPCは50才までの寿命を持っています。この値を1年削る毎に達成値に+1のボーナスがもらえます。
2つ目はカードを使う方法です。技能の値と同じ数字までカードをだして、その1番上に書いてある値をボーナスとして加えることが出来ます。カードを補充する機会は限定されているので注意して使ってください。
3つ目は寿命を4年削ってサイコロをふりなおすことです。

これらの方法はそれを行なうにふさわしいときにのみ行なってください。くだらない判定で雰囲気を壊すことのなきように。

4,手札の補充

手札はシーンが変った時に補充されます。シーンがいつ変ったかはマスターが指示します。逆になんらかの理由で手札の枚数が6枚を越えている時はシーンが変ったら6枚に戻さねばなりません。

5,縁故

キャラクターシートに縁故、というものが記されていると思います。これはそのPCと他者(物品のこともあります)との関係の強さを表す数字です。この値が高いほどPCはそのものに深い関わりをもっています。関わりといってもそれは良い関係のみを意味するのではありません。その値が憎悪であるのか愛情であるのかは個々の状況によります(往々にして愛情は憎悪に転化しやすいものです)。
行為判定の際縁故に関わる判定であるのなら寿命を1年削ることにより縁故の値をボーナスと出来ます。 またプレイ中でも最大値の範囲内でPCやNPCに縁故をふりあててかまいません。

縁故の値と関係の深さは以下のようになっています。

1:知りあい
2:友達
3:親友、仲間
5:運命を共にする相手
6以上:常軌を逸した異常な関係

card.JPG 図−1


夢歩きについて

 深淵のルールの中で最も特徴的なものの一つである夢歩きについてこの章で解説します。

 <夢歩きとは!?>

 深淵のPCたちが住む世界は夢の世界に隣接しています。そのため彼等は夢の中でさまざまな魔法的な現象と出会うことが出来ます。
 このために設定された技能が夢歩きです。
 夢歩きは基本的に夢を見る素養を表したもので、同時にその人が以下に魔法の領域に近いかをしめしています。またプレイヤーがどのようなストーリーを望んでいるかを明らかにするための技能でもあります。

 ゲームマスターの指示で夢歩きを行なうようにいわれた場合、通常の行為判定と同様に夢歩きの技能で判定します。目標値は普通10です。この時ダイス目にかかわらず1枚のカードをマスターに提出し、この値は達成値に加えられます。(この時即座に1枚カードが補充されます)。マスターはそのカードの語りべの欄の台詞を参考にして幻想的なシーンを演出します。これが夢歩きです。

 夢歩きが実際に行なわれている例を2つほど挙げてみましょう。

年老いた老剣士の夢

GM :というわけで君たちは眠りについた。では夢歩きの判定をしてくれ。
剣士クレイド:成功。カードはこれを。(出されたカードは黄の戦車:我が運命はまもなく終わり、時代は変っていくだろう)
GM:君は、もう20年も前になるか、君の剣の師匠である老人から君が始めて1本とったときの様子を夢に見ている。師匠は少し淋しそうな笑顔を見せて君の頭をなでてくれた。師匠が酔った時暴漢に襲われ命を落としたのはその1週間後のことだった。
 君はふとこんなことを思った、自分のことを師と慕うあの少年に、俺は何を残してやれるのだろうと

若き農夫の夢
GM:君は彼女を見た瞬間強いショックを受けた、夢歩きをしてくれ。
農夫ラーク:ではこのカードを。
GM:本当にこのカードでいいの?
農夫ラーク:ええ(カードは白の風虎:我は忘れぬ、我は諦めぬ、我は追いつめる)
GM:彼女は君の事をみつめている、あの時君が自分の命惜しさにいけにえに捧げた妹の目を思い出す。君の背後からいつものように君にだけ聞こえる妹の声がする。「我は忘れぬ、我は諦めぬ、我は追いつめる」。彼女は君の方を見てこういった。後ろの死霊は妹さん?」

 夢歩きはオープニング、エンディングの際にも行なわれます。この時は必ず判定は成功します。

 夢歩きをうまくするコツは、自分がどのようなことをこのPCで表現したいのかを年頭に置いてカードを選択するということです。

 また、夢歩きの際選択されたカードはストーリーの方向性にも影響を与えます。例えば明日恋人を救いに怪物の洞窟に行くという日の晩に見た夢が「愛するものよ、汝が死すとも我が愛は永遠に変らず」か「汝らは我が餌、ただそれだけの存在にすぎないのだ」では明日の展開が大きく異なるのが解るでしょう。

<追加ルール>
当サークルの夢歩きに関するハウスルールを紹介しておきます。
 使用できるかはマスターに尋ねてください。
・縁故を夢歩きのボーナスに出来る。その場合その縁故に関する夢が語られる
・刻印を夢歩きのボーナスに出来る。この場合その星座に関する夢歩きが語られる

戦闘ルール

  深淵の戦闘ルールについて簡単に説明します。

<ターン>

 戦闘シーンはターンとよばれる10秒ごとの単位で進みます。ターンは以下の手順で進められます。
(1)カードの補充
 ターンの最初に全プレイヤーとマスターには1枚のカードが補充されます。
(2)冒頭の説明
 マスターが起こっている状況を簡単に説明します。
(3)行動値の順に行動する
 行なうことに関しては後に説明します。
(4)カードの調整
 カードの枚数が6枚を越えていたら不必要な札を捨てます。

<キャラクターの行動>

 自分の番が回ってきたプレイヤーは1つの行動が取れます。逆にいえば1ターンには一つの行動しか行なえないことに注意してください。これには防御や回避といった行動も含まれます。
 またカードを使うことにより行動を追加することが出来ます。カードの真ん中の追加という欄に書いてある内容が行なえる行動です。
 移動は1アクションで行動値メートル分進めます。
 そのターン何もしないことで次のターンの最初に補充されるカードの枚数を2枚にすることが出来ます。
 また、他のキャラを応援することで、そのキャラにカードを1枚渡すことが出来ます。応援は魔法カードで行います。

<攻撃判定>

 攻撃が命中したかの判定は以下の手順で行ないます。

 (1)攻撃の判定
 攻撃側が武器の判定値を用いてあたったかどうかの判定を行ないます。目標値は防御側の行動値です。この時攻撃側ははっきりとでた目を申告してください。
 (2)ダメージカードをめくる
 深淵の場合、ダメージの判定はカードで行ないます。武器のところに書いてある効果値分の枚数のカードがダメージの量です。カードは山札からめくってもいいし、手札から出してもかまいません。
 3/4などのようにかいてある武器は4枚めくってその内から3枚を選ぶという意味です。また、○打のように書いてある武器は通常のダメージ+精神力に1点のダメージを与えます。

 (3)防御判定

 防御側には4つの選択肢があります。この内のどれか1つを選択します。但し、防御のための行動(回避・防御)も1ターンの行動の内の一つになるのは先ほどいったとうりです。

1、 そのまま全ダメージを受ける

 全ダメージが適用されます。

2、回避する

 回避の場合攻撃側の達成値+1が目標値となります。回避できた場合演出と書いてある以外の全てのダメージを受けずにすみます。

3、防御する

 武器や盾で攻撃を受け止めようという試みです。目標値攻撃側の達成値そのままです。回避より目標値が1低いことに注意してください。
 判定に成功すると防御に成功した武器や盾の防御値分だけカードを打ち消せます。ただし、「演出」「衝撃」「武器」と書いてあるダメージカードは消せません。

 4、防具で吸収する

 攻撃の命中した場所に防具をつけていれば判定なしでその効果を発揮できます。防具による吸収は1ラウンドの行動の回数に含みません。但し、貫通というカードがダメージの中にでている場合、防具は無効化されます。

 防具の効果は以下の2つです。

1,ダメージカード1枚につき吸収値分のダメージを減らす。
2,手札を1枚捨てることでダメージカードを1枚打ち消す

念のために言っておくと、深淵の戦闘はかなりシビアです。非戦闘員が戦闘にまきこまれるというのは悲惨の一語につきます。


お願い(あとがきに代えて)

 以上が「深淵がよくわかる本上巻 ー基礎編−の内容です。どうでしたか、わかりやすかったですか?楽しんでいただけましたでしょうか?
 はじめにでも言いましたが、シナリオの書き方等の応用的なことは中巻、資料的なことは下巻にて扱います。上巻には構造上「キャラメイクが深淵は一番楽しい」と書いたにも関わらず、そのキャラクターを使ったセッションのことは書いていないのという問題点があるのですが、それは中巻をお待ちください。

 さて、あとがきに代えてお願いなんですが、この本を読んで何か質問、意見等あれば是非およせください。重要なものに関しては次巻以降でお答えしたいと思います。

  では、次は中巻でお会いしましょう。