某時某所での深淵のセッションログ


 ストーリーはうろ覚えである。従い内容が幾分歪んでいる可能性がある。

そこの所はご了承いただきたい。

 尚、シナリオはthink&sinkの「」を使わせていただいたが、シナリオの情報量は当社比約3倍と化しており、設定等も大幅に改編してある。見ていただいても参考程度にしかならないと思われる。


キャラクター

エルトリッヒ=シュタイナー
 猟師。最愛の妻アンナを亡くし、その面影を留める娘リーシアを溺愛する。娘は妻と同じ重度の肺病にかかっており、最後の望みをかけて治癒師として名高いヨムの下に向かう。

ヨシュア=カライル
 治癒師を志していた少年だが、昔最愛の妹ユリーシャを肺病で亡くし、以後治癒師ヨムに師事し黒剣の治癒呪い師として修業する。放浪修業の身。

エシュレイ=ローウェル
 肺病で倒れた婚約者ルティアの命を救うため、伝書師として各地を放浪し治療方法を探している。治癒術師ヨムの噂を聴き、彼なら何とかなるかもしれないと淡い期待を抱いている。

ウェルバ=ソルディア
 生まれつき三重苦を背負いながら、他人の夢を見ることのできる力を持っていた。両親は命と引き換えに、彼に「人の役に立つ人物になれ」という使命と身体の自由を与えた。


 夢占い師は夢と深淵の狭間でさまよう霊の囁きを聞く。

 兄を助けて…

 か細く囁く。

 私のために落ちていこうとしている兄を…と…

 

 ねとつく空気。雨の後の曇天…昏い気配。

 エルトリッヒの脳裏に浮かぶ妻の姿。

 笑い声をあげて…

 何もできなかった自分への悔やみ。

 そして苦しそうに息をあらげる娘。

 

 馬がいななきをあげる。ゆっくりと動き始める馬車。

 物憂げな瞳。

 それはここにあるなにものをも捉えず、ただ遠い日の妹だけを見ていた。

 何故、僕にはもっと力が無かったのだ、と。

 

 がたごと、がたごと。

 遅々として馬車は進まない。その遅さにいらつくエシュレイの脳裏に、昔見た夢が過る。

 老人がいた。

 この道は山へは続くのか、と老人は訊いた。

 続きましょう、と彼は答える。

 では、海へは続かぬのか、と老人は訊いた。

 続きましょう、と彼は答える。

 では、山へも、海へも続くのか、と老人は訊いた。

 続きましょう、と彼は答える。

 歩き続ければ、山へも、海へも、どんなところへも道は続きましょう、と。

 

 がたごと、がたごと…

 ゆっくりと、ゆっくりと馬車は進む。

 四人の男と、一人の娘の想いを乗せて…


セッションの実際

 シーンの第一場面では、馬車に乗り合わせた一行が互いにどう反応するか、という所が要になる。

 全員の設定の明かさないという手法でスタートしたためか、発作を起こしたリーシアを見とがめたエシュレイとヨシュアが声をかけても、エルトリッヒは無視を決め込む。
 しかし三人はこのまま馬車で振動を与え続けては危険と判断し馬車を止めさせ、治療に当たることになる(最も、ウェルバは特にすることも無くストレッチ体操をしていたが。)

 リーシアが意識を回復すると、その姿に各々別人を見る。
 ウェルバに至っては「奪われた己」を暗示するなど、かなり錯綜を呈する。
 だが、リーシアを通じて互いの認知が行われる。まだまた隠している所は多々あったが…
 これが良い意味で後に響いてくることになる。

 翌日、馬車は再び走り始めるが、リーシアの状態は思わしくない。
 エシュレイとエルトリッヒは、共に最愛の人の姿をそこに認める。
 だが、エルトリッヒの方は妻と娘の区別ができつつあるのに対し、逆にエシュレイは区別がつかなくなりかけている。

 昼頃、道が土砂崩れになっているところに出くわす。
 御者は町まで戻ることを提案するが、エルトリッヒがキレる。結果、森を力任せに突っ切っていくことになる…リーシアはエシュレイの馬に乗せて。
 が、不安は的中。途中で突風を受け、身が竦んだところに守護者が襲いかかってくる。一応ウェルバが説得しようとしたが…無視される。
 襲い掛かってくるカマイタチは見事に一行をすりぬけリーシアに命中、血の霧を舞わせる。
 逆上したエルトリッヒは戦斧を構えて突進するが、かわされて吹き飛ばされる。
 幻視の中でエシュレイは続け様に剣を振るい、前脚を跳ねあげた剣が心臓を串刺しにする。

 恐怖と異様な熱気の中、現実が乖離し、夢現混じり合い混沌が渦巻く…

 次のシーンでは心理葛藤が非常に重要になる。従い小説風になるを恐れず、心理描写をさせていただく。

 やがて一行はヨムの館に到着、すぐさまリーシアは集中治療室に運び込まれる。
 リーシアとヨムは会話を続ける。
 客間で待たされる一向は到着を予期していたかのようなヨムの行動に不安を抱く。
 彼は本当にヨムなのか?
 彼の技で本当に想い人は助かるのか?

 ヨムはエルトリッヒに「この森の最奥部にある薬草が必要だ」と告げる。
 エルトリッヒの「それで本当に救えるのか?」という問いに、
 ヨムは「分からん、だが、彼女は救われると思う」と微妙な台詞を返す。

 エシュレイはヨムに、ルティアを救う方法を訪ねた。
 ヨムは彼の目を見つめ言う。
 「何が起ころうとも意志を貫く覚悟はできておるな?」
 戸惑いながら頷く彼に、ヨムは森の奥へ向かえと告げる。

 ウェルバはヨムに、両親のこと、呪いのこと、そして自らの行く末について相談する。
 ヨムは逆に、今までの生き方をどう思うか、どのように生きていけば良いかを訪ねる。
 そして首を振る。それを決めるのは、主自身だ、と。
 ヨムはウェルバにリーシアの状態を伝えた。そして、遅い来る苦難から彼らを救ってやってほしいと頼み込んだ。
 ウェルバはこれを了承する。

 そっと、一人が扉の影から離れる。盆を持っていた。

 そして、ヨシュアが師に呼ばれる。
 修業の旅の中で何を見出したか、との問いに、
 「自分が未熟でさえなければ、もっと多くの人が救えたのに…」
と口ごもりながらも、ヨシュアは一つの疑念を抱いていたようだった。
 師は微笑み、卒業試験として一行について森の奥へ行くことを弟子に求める。
「黒剣を学ぶものは翼人を知らねばならぬ」とつけ加えて。
 二人はその後、調合部屋へと入り、リーシアのための薬草を精製していた。
 ヨシュアは、それが副作用を伴う強烈な強壮剤であることに気づく…

 父は娘に向かって微笑む。もうすぐ旅も終わりだな…と。
 娘はそれに悲しそうな微笑みで答えた。それは、妻の最期の微笑みに似ていた。
 頭の片隅で、何かが呟く。

もう、彼女は助からん

 それはもう一人の自分のようであり、またしわがれた老人の声のようでもあった。

もう、彼女は助からん…私ならば、お前の望みを叶えることができる

 

 エルトリッヒは迷った。否定するには、あまりにも彼は弱すぎ、その礎は脆かった。

 波音が響く。エルトリッヒは、足元の水面に移る老人の影に飲み込まれていく…

「そこに笑顔は見えるか? お前の妻や娘の笑顔は見えるか? 醜き鏡面にだまされてはおらぬか?」

 凛と、別の声が響いた。エルトリッヒは慌て、自らの足元を見つめ直す。そこに移っていたのは妻や娘の顔ではなく…

 醜き老人の影。

 

 また一人、深淵の狭間にたゆたう者。

 その回りを歪んだ鏡面が取り囲み、軽やかな笑いがエシュレイを嘲笑した。

 「このままで彼女が助かると思って? あの老人の気休めにだまされて…
 人は醜いものよ、自分が可愛いものよ。難解な言葉を弄して人の心を弄び、傷つかないようにする…
 貴方の未来を見せてあげる…」

 ぐにゃりと歪む視界。

 薬草を持ってルティアの下にたどりついた彼。

 彼女の寝台に寄り添いさめざめと泣く人々…

 そして、青白い顔をして二度と動かないルティア。

 半ば笑いながらその名を連呼するエシュレイ。

 しかし、失われた命はもう二度と戻らない。

 その耳下で囁く声がする。

私に従えば、貴方の望みを叶えてあげられるかもしれないわよ…

 その時、一陣の青い光が走り、短剣が声の主を掠めた。悲鳴と共に声は消え去り、エシュレイの絶叫が響きわたる。

 皆が駆けつけると、土気色になり生気を失い、吐き出した血で辺りを濡らすエシュレイがそこにいた。

 

 人々がぱたぱたと倒れていく。

 その死を嘆き、背負い、子は育つ。

 命は一つ、一つ、受け継がれていく。

 生まれては、死に、死んでは、生まれ。

 輪廻…転生。

 光と、闇。

 霧の奥、ヨシュアは呟く。

 「黒剣と…翼人。その双方があって、初めて意味を為す…そういうことなのですか?」

 答える者は、いない。

 

 翌日、一向は森の奥へと旅立つ。
 空は快晴。
 森を爽やかな空気が駆け抜け、陽光が降り注ぐ。
 ピクニックだとはしゃぐリーシア。
 また来ようね、と笑う彼女に、父は「ああ、きっとだ。」と頷く。

 道中、旅の話を聞きたがるリーシアに、エシュレイはルティアの姿を重ねる。
 だが、その幻影も薄れつつあった。

 その日の晩。薬の準備をするヨシュアに、リーシアは治療師となった所以を訊く。
 ヨシュアは正直にそれに答え、救えない人もいると嘆く。
 リーシアは、その心がその人を救ってくれる、と寂しげに笑う。

 翌日、道中特に変わりなし。
 その晩リーシアの手から、父に渡してくれ、とエシュレイに書簡が渡された。
 そこにはこう書かれていた。
 

「お父様、いままでありがとう。私、お父様の子供で本当に良かった、と思っているよ」

 エルトリッヒとエシュレイの耳から囁きは消えない。

 翌日、一行の前でリーシアは、己の運命を告白する。
 最期の瞬間、心の闇が誘惑をけしかけてくる。

 二人はそれを振り払い。

 リーシアの死を受け入れた。

 菫色の公女フェレス…
 彼女がリーシアに託した記憶喪失の薬草は、エルトリッヒによって空に散った。

 お前のことは忘れはしない。

 いつか逢える日が来るのだから、と。


エンディングの夢歩き

 エシュレイ

紫の海王

時過ぎれば、憎悪さえも小さな思い出に変わる
 嵐は、いつか去るのだ

 彼は道を歩いていた。
 想い、歪み、そして狂い。
 それすらも一つの結論に変わる。
 家が見える。彼女の家が。
 帰ってきたよ、君の笑顔を見るために

 

ヨシュア

赤の翼人

そのうたかたの鎖を断ち切ろう
 今や、汝は自由となった

 ユリーシャが微笑む。
 私のことは、もういいの。
 兄さん、幸せになって…
 私のことに囚われて、苦しむのはもうやめて…
 …ね。

赤の野槌

この場所こそ我が故郷
 それだけは決して忘れない

 いいや、ユリーシャ。
 君がいたからこそ、僕はここまで来れた。
 そして悟った。死は無駄ではない。
 死は、次の生を作り出すためにあるんだって。
 死と生、この繰り返しそのものが「生きていくこと」なんだって。
 僕は君のことを忘れない。
 共に生きていこう。
 君はいつまでも僕と共にある。
 思い出の中に生き続ける。

ウェルバ

黄の指輪

今一度の我慢。
 いつか再び戻る日だけを夢見て、今暫く待つとしよう

 谷間に傾く古い家が見える
 朽ちて、人は最早住めぬ

赤の牧人

未来を見よ
我はここに世界を編む

緑の戦車

命短き者よ、生き急ぐな。
お前の生きる大地は、常にゆっくりと歩む。

 やがて、花が咲き始め
 家を覆い尽くす
 …また逢おう。
 遠い日の我よ。


エルトリッヒ

青の海王

遠く離れても海は一つ
波は、いつか届くだろう

海辺に広がる花畑に、一本の石柱が立っていた

その前に立つ男は、無骨な手で、そこに花飾りをかけ

ゆっくりと、暖かな風が吹き始める

遠くから

 リーシアの、声が聞こえた気がした



注)ウェルバとヨシュアはあまりよく覚えていない。もしかしたら大幅に違うかもしれない。

 


GMの感想

 非常に綺麗なシナリオでした。幾分あっけなさ過ぎた感もありますが、皆さん深淵は初めてということで、万万歳といったところでしょう。

 最初にプレイヤーが困惑していたので、内心かなり焦っていました。が、途中で夢歩きの主旨を理解してもらってからは、通常の「深淵」では許されないようなルール粉砕を強行し、力づくで押し切りました。この辺、皆さんがルールを知らなかったのが不幸中の幸いです。長剣での5連続アタックとか、3枚のカードで夢歩きとか、無茶したもんなぁ(藁

 贅沢を言わせてもらえれば、もう少し遊びたかったです。今回、私は何も面白くなかったんですね。ですけど、私が遊ぶと、大概評価低いんですよ。私自身にセンスがないもんで。だから、今回は完全にGMの役割だけに徹したわけです。全く遊んでなかったとは言いきれませんが。意味ありげに笑って見せるとか。プレイヤーが慌てて面白いんだ、これが。

 まぁ、自分も相手も面白いGMなんて、私ごときにはまだまだ早い。百年修行を積ませてもらいます。

 今回は深淵につきものの脱線はしなかった。途中で誘惑はありました。ウェルバの両親が実は魔族とか。だってネタ振ってくるし。深淵初心者の方を考慮して(とゆーか私が捌き切れる自身なかったから)パスしたけど。後は、PCの強度を考えたら、エシュレイが発狂して全員を生けにえに捧げる、という展開も面白かったかもしれん。

 とにかく今回は、プレイヤーの皆さんにもそこそこ満足して頂いたようです。(約2名の方には申し訳ない。すみません。出直してきます。)

 いつもこう行きたいものです。


今回のハイライト

 何が面白かったかって、既に森で風霊犬ジュダンと戦うシーンで、リーシアが大ダメージ食らった瞬間2人が違う人の名を呼んでいたこと(笑)
 君ら幻覚はまんのはやすぎ(笑)

 後は、ヨム師の館で、山札夢歩きを宣言したエシュレイが1ゾロ出してくれて、しかもカードが黄の原蛇だった所とか(笑)
 思わずシナリオに予定のないエリシュちゃん出しちゃったよ。
 その割にラストでは悩まなかった。まぁ、ヨムの館で大分悩んで、半分結論は出てたし、よしとしましょう。


今回の反省

 まずはルールの説明がショボかったこと。
 その都度その都度ちゃんと説明できなかったのが痛い。
 次にマスタリングがヘボかったこと。
 描写で引き込むのは無理だと早々に判断して怪情報を巻き散らし混乱させる作戦に出たが、シナリオの面白さの万分の一も味わえてもらえてないのではないかと思う。(あれはマスタリングが上手いんじゃないんです。上手いように見せかけてるだけです。実際問題、あれだけ準備してくりゃ他の人はもっといいシナリオできますって。)
 最後に、自分でストーリープレイをやるとかほざいときながら、面白いストーリーを提供できなかったこと。
 つーか死んできます。
 さいころげえむってやっぱり資質が必要ですね。
 想像力、描写力、体力、アドリブ能力。
 この全てが欠けてます。滑舌も悪いです。
 どーせ万年三下だよ、けっ!